五輪金の監督に教わった「準備の鉄則」=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第8回

高島三幸

データやプレゼン要素の準備も必要

眞鍋監督は故松平氏の名言が書かれた冊子を大事に持ち歩いている 【スポーツナビ】

 全日本女子が世界のどの辺りにいるかを冷静に分析し、メンバーやスタッフの前で目標を明確に言い切ることも、チームリーダーに必要な要素です。どうすれば、目標を達成できるのか、事前にデータを分析し、その仮説や方法論を分かりやすく提示する。メンバー全員を、「世界一になれるかもしれない」とやる気にさせるには、やはりデータや戦略などのプレゼン要素を準備しておくことが必要であり、それをリーダーが情熱を持って話すことで、その信ぴょう性や説得性が増すと考えています。

 また、リーダーの言葉と行動がかけ離れていてはいけません。私は本気で世界一を目指していますから、「世界一の男子バレーの技術を勉強し、女子選手に生かす」「バレーだけでなく、あらゆる世界一を知る」といった、世界一を目指すための言動を常日頃から意識し、選手にもその本気度が伝わるようにしています。

五輪銅メダルに導いた名将の言葉

 そんな私自身が目標にし、精神的支柱にもなっているのが、元全日本男子バレーボールチーム監督で、1972年ミュンヘン五輪で日本を金メダルへと導いた故松平康隆さんです。「常識の延長には常識の結果しかない。非常識の延長にとてつもない結果がある」「ヒーローは強くなければヒーローたりえない。弱いヒーローなどいない」「逆境になったら“しめた”と思え。天から与えられた環境をブレークしていけば人間何でもできる」といった名将が残した数々の名言は、ノートに貼ったりして迷った時などに読み返しています。 

「世界一になるために、最低でも5つの世界一を持たなければいけない」
 私が全日本女子チーム監督に就任した直後、生前の松平さんからいただいた助言です。これをヒントに世界で勝つための戦略を考え抜いた私は、世界一に最も近かったセッターの竹下佳江、ウィングスパイカーの木村沙織、リベロの佐野優子に、「それぞれのポジションでの世界一になってほしい」と伝え、全日本を支える3本柱に育てました。チームとしては、ミスの少なさで世界一になるという目標も立てました。さらに、日本のお家芸である「拾って拾って拾いまくるバレー」を実践するために、守備の底上げも図りました。

 松平さんの助言は、ロンドン五輪で銅メダルを獲得するための戦略となり、“明確な準備”につながりました。つまり、目標から逆算した長期的なテーマを決め、本番に向けてしっかりと準備する。リーダーとしてやるべき仕事の重要性を、私は松平さんから教わったと思っていますし、これからも愚直に取り組んでいくつもりです。

<この項、了>

プロフィール

眞鍋政義(まなべ まさよし)
1963年兵庫県姫路市生まれ。大阪商業大在学中に神戸ユニバーシアードでセッターとして金メダルを獲得し、全日本メンバーに初選出。88年ソウル五輪にも出場した。大学卒業後、新日本製鐵(現・堺ブレイザーズ)に入団。93年より選手兼監督を6年間務め、Vリーグで2度優勝。退団後、イタリアのセリエAでプレーし、旭化成やパナソニックなどを経て41歳で引退。2005年に久光製薬スプリングスの監督に就任し、2年目でリーグ優勝に導いた。09年全日本女子の監督に就任し、10年世界選手権で32年ぶりのメダル獲得に貢献。12年ロンドン五輪、13年のワールドグランドチャンピオンズカップで、それぞれ銅メダルに導く。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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