木村沙織も実践したスランプ脱出法=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第7回
人生初のスランプに陥った木村沙織(写真)が実践したスランプ脱出法とは!? 【坂本清】
スランプの原因を探るために大事な2つのこと
スランプは、自分でも気付いていないような潜在的意識から生み出されることが往々にしてあります。プレッシャーによる義務感や焦りから、言動に微妙な変化が生じたり、環境の変化が調子を狂わせ、平常心での対応が難しくなったり……。いずれにせよ、そうした原因を探るためには、「振り返り」と「検証」が大事になります。
バレーで考えると、例えば、ある選手のスパイク決定率が著しく低下したとします。すると、われわれコーチ陣は、好調の時と現在の数字や映像を徹底的に見比べます。特に映像では、助走、ボールを捉える位置、腕を振り上げるタイミングなど、一連の動きを分解するように、一つ一つ検証していく。そして、好調の時との違いから解決につながりそうな仮説を立てます。
この時点で、選手本人にも映像を見せます。自ら原因に気付くように、コーチ陣の仮説も共有しますが、選手自身が理解し納得するように、分かりやすく説明することが大事です。その手順を踏んだ上で、解決につなげるための反復練習を行う。その時、選手は好調な時のイメージを頭で描けていることがベストです。目指すべき姿をイメージしながら反復練習を重ねることで、練習の質とモチベーションが上がります。
データに基づく具体的な解決策を示す
木村は本来、メンタルが安定した選手ですが、自分が「チームの要」という自覚と責任感が強い。しかし、ミスをした時に取り戻そうという気負いと焦りが募り、さらなるミスを招くという負のループに陥っていました。
各国から狙われるのは日本のエースであり、脅威だと捉えられているからです。「狙われるのは一流の証拠だ」とプラスに捉えられれば、少しは気持ちが楽になると思うのですが、当時の彼女にそんな余裕はありませんでした。また、気持ちの切り替えがあまりうまくないことも、なかなかスランプから抜け出せない原因の一つでした。
われわれコーチ陣は、あらゆる角度から解決策を探りました。まず、数字の検証です。アナリストに、木村のサーブレシーブの返球率がどれぐらいであれば試合に勝てるのかを分析してもらいました。すると、8割の確率で返球できれば勝てる、という結果でした。
ロンドン五輪前は、5割の確率で木村がサーブで狙われていました。バレーボールはセットスポーツなので、3セット取れば勝つわけですが、1セット23〜25回程度、サーブレシーブを受ける機会があるとしたら、その半分の12〜13本は木村に集中します。
そこで、そのうちの8割である「8〜9本をセッターに返せばいい」と、ここまで具体的に提案すれば、木村も理解しやすく、納得しやすい。やるべきことが明確になれば集中しやすくなります。
木村の要望で夕食後に誰もいないコートに立ち、12本のサーブのうち8〜9本を正確に返球する練習を3セット、毎日続けました。そして試合では「1セットのうち、3本までは失敗してもいい」と伝え、プレッシャーを和らげました。