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木村沙織も実践したスランプ脱出法
バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第7回

ルーティンを加えて気持ちを切り替える

目標達成への手間は惜しまないと語る眞鍋監督
目標達成への手間は惜しまないと語る眞鍋監督【スポーツナビ】

 また、木村のサーブレシーブが好調の時と悪い時の映像も見比べました。よく観察すると、失敗する時は、相手がサーブを打った直後に必ず1〜2歩前進していることが分かりました。レシーブ後、彼女はすぐにスパイクを打ちにいかなければいけません。苦手意識による焦りから、無意識にそんな動きが生じ、レシーブのタイミングを微妙に狂わせていたのかもしれません。この映像も木村に見せて、練習の時からその癖を意識させました。


 さらに、メンタルトレーナーの力も借りました。話し合った結果、ミスを引きずらずに気持ちを切り替える術として、ルーティン(決まった作業や習慣)を加えることにしました。相手のサーブが飛んでくる前に、深呼吸をしてレシーブの素振りをするかのように手を組み、親指と親指を重ねます。


 バレーボールは、“間”があるスポーツです。ボールが落ちてから次のサーブまでの“間”をうまく利用すれば、気持ちの切り替えができます。審判が試合再開の笛を鳴らすまでの10〜15秒ぐらいの間に、木村はこの“儀式”を取り入れて気持ちを一旦リセットし、悪い流れを断ち切れるようになりました。

勝つための妥協なきこだわりが必須

 こうした解決策に加えて、木村を大阪に連れて行き、男子実業団・サントリーサンバーズの荻野正二さんに頼んで、不安を軽減させるためのアドバイスをしてもらいました。荻野は木村と同じポジションで、同じ経験をして苦しんだ守備の名手であり、1992年バルセロナ五輪、08年北京五輪の全日本代表メンバーです。そんな彼の言葉は、コーチ陣が毎日かける言葉よりも説得力があり、より彼女の心に響くものがあると考えました。若い選手なら同じチームのベテラン選手のアドバイスも効くでしょうが、エースである木村の気持ちを深く理解し、アドバイスできる選手は当時の全日本女子にはいなかったため、荻野が適任だと考えました。


 3カ月ほどかかりましたが、木村はスランプから脱却しました。技術やメンタルなどあらゆる方面からのアプローチはもちろんですが、荻野の力も大きいと感謝しています。


 私たちの最終目標は、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮して、五輪でメダルを獲得することです。そのゴールに向けてあらゆる可能性を考えながら、よりよい手段を徹底的に探して試します。そのための手間は惜しみません。私一人のアイデアや力なんて知れていますから、目標達成のためには人の力も借りる。思考の幅が広がると同時に、問題解決につながる手段も増えます。さまざまなハードルを飛び越えるためには、勝つための妥協なきこだわりが必須だと考えます。


<この項、了>

プロフィール

眞鍋政義(まなべ まさよし)

1963年兵庫県姫路市生まれ。大阪商業大在学中に神戸ユニバーシアードでセッターとして金メダルを獲得し、全日本メンバーに初選出。88年ソウル五輪にも出場した。大学卒業後、新日本製鐵(現・堺ブレイザーズ)に入団。93年より選手兼監督を6年間務め、Vリーグで2度優勝。退団後、イタリアのセリエAでプレーし、旭化成やパナソニックなどを経て41歳で引退。2005年に久光製薬スプリングスの監督に就任し、2年目でリーグ優勝に導いた。09年全日本女子の監督に就任し、10年世界選手権で32年ぶりのメダル獲得に貢献。12年ロンドン五輪、13年のワールドグランドチャンピオンズカップで、それぞれ銅メダルに導く。

高島三幸

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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