データは実感の湧く数字に翻訳して伝える=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第6回
眞鍋監督が膨大なデータの活用法と選手への伝え方について語った 【スポーツナビ】
しかし、ただデータを集めるだけでは意味がない。その膨大なデータを最大限に生かし、選手に分かりやすく伝えることが必要だ。眞鍋監督に自ら実践するデータ活用法を聞いた。
全データの洗い出しからスタート
ただ、私はデータへのこだわりが強く、多くの数値を洗い出し、徹底的に分析して戦略を立てたいタイプです。情報は全て手に入れておきたいというセッター出身の監督だからかもしれませんが、勝つためにはあらゆるものを活用して、メダル獲得への可能性を1パーセントでも高めることだけを考えています。
09年に全日本女子チームの監督に就任し、アナリストの渡辺啓太にまず依頼したのは、「北京五輪の数字を全部出して」ということでした。全部というのは、五輪に出場した12チームのスパイク、サーブ、ブロック、レセプション(サーブレシーブ)、ディグ(スパイクレシーブ)などの決定率や効果率、返球率といった全てのデータです。とにかく、「数字で表せることは全て」というぐらいの要求を渡辺にしました。
ちなみに、スパイクの決定率と効果率の違いを説明すると、例えば、10本打って5本決めれば、決定本数を打数で割った50%が決定率になります。一方、決まらなかった本数のうち、失点につながったものを計算した数値を効果率と呼んでいます。仮に、10本打って決まらなかった5本のうち、ミスが1本、ブロックされたのが1本による2点の失点があったとします。この時のスパイク効果率は、決まった5本からミス分の2本を引いた3本を、さらに打数(10本)で割った30%ということになります。
AとBという2人の選手がいずれも10本うち5本決めれば、決定率はともに50%です。しかし、自らのミスによる失点がAは0、Bが2点の場合、Aの効果率は50%で、Bは30%という異なる数値になり、1つの判断材料になるわけです。
渡辺は、データバレーで分析した細かい数字をより精査し、分かりやすい形に加工した上で出してくれました。監督や各コーチ陣の戦術に合わせたデータを出すようにリクエストされることもあり、大変な作業だと思います。ただ、ありとあらゆる材料を集めた上で、より的確な決断、緻密な戦略へとつなげたいという考えが私にはありました。データを広げて、コーチ陣と何度も話し合いながら、私は世界ではどうすれば勝てるのか、世界で勝つにはどんなプレーが求められるのかという仮説(=結論)を導きだしていきました。
大きな目標から小さな目標に落とし込む
選手には、ブロックで止められたり、アウトにするようなスパイクの失点を、1セット4失点以内に抑えられれば、90%の確率で勝てると伝えました。「スパイク効果率が全体の3位以内」というよりも、「1セットでスパイクの失点は何点以内」といった、できるだけ実感の湧く数字に翻訳することが大事です。選手たちの目指すべき目標、やるべきことが明確になりますから。
ただ、過去のデータは試合中に刻々と変わります。「データバレー」の情報は私が手に持つタブレット端末に送られ、試合中もリアルタイムでチェックできます。その効果は絶大でした。例えば、クロススパイクが多いと事前のデータに出ていた相手チームのエースは、その試合ではストレートで打っているということが分かり、ブロック戦術を変更するなどの素早い対応につながりました。こうしたデータバレーによる成功の積み重ねは、選手たちの監督やコーチ陣への信頼にもつながり、選手自身の自信になって好循環を生みます。
データを継続的に見て分析する力も必要
こうしたデータ分析をもとに、私はあらゆる事態を想定しながら、勝つためのシミュレーションを毎回行います。そして試合前日には、データ通りにいかないことも含め、常に最悪の事態も想定しておきます。あらゆる可能性を考えて、その時はどう対処するかと頭の中でシミュレーションしておくのです。すると、少しのトラブルでは焦らなくなります。分析したデータが軸にあるからこそ、あらゆるシミュレーションができ、心の準備につながるのだと思います。