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データは実感の湧く数字に翻訳して伝える
バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第6回
眞鍋監督が膨大なデータの活用法と選手への伝え方について語った
眞鍋監督が膨大なデータの活用法と選手への伝え方について語った【スポーツナビ】

 全日本女子バレーボールチームの眞鍋政義監督は、頭脳派として知られている。そのゆえんは、データに基づいた緻密な戦術だ。本連載の第4回(3月10日掲載「データの力は女子チームでこそ発揮される」)で紹介したように、数値化された情報は全日本女子チームを率いる上で欠かせないものとなっている。

 しかし、ただデータを集めるだけでは意味がない。その膨大なデータを最大限に生かし、選手に分かりやすく伝えることが必要だ。眞鍋監督に自ら実践するデータ活用法を聞いた。

全データの洗い出しからスタート

 トップスポーツの世界ではデータの活用が当たり前です。1980年代には、バレーボールの最高峰であるイタリア・セリエAがデータを導入し、日本では2003年に本格導入しました。現在は、実業団チームにもアナリストがいるのは常識。試合中はスカウティングエリアと呼ばれる所定の席で、彼らがパソコンを前にキーボードで打ち込み、そのデータも活用して戦っています。また、世界中のチームが「データバレー」というゲーム分析ソフトを活用して作戦を立てています。なので、32年ぶりの銅メダルを獲得した2010世界選手権で、タブレット端末を片手に指揮を執る私の姿が映し出され、「データバレーの活用で勝利した日本」などとメディアにはやしたてられたのは、やや首をかしげたくなったものです。


 ただ、私はデータへのこだわりが強く、多くの数値を洗い出し、徹底的に分析して戦略を立てたいタイプです。情報は全て手に入れておきたいというセッター出身の監督だからかもしれませんが、勝つためにはあらゆるものを活用して、メダル獲得への可能性を1パーセントでも高めることだけを考えています。


 09年に全日本女子チームの監督に就任し、アナリストの渡辺啓太にまず依頼したのは、「北京五輪の数字を全部出して」ということでした。全部というのは、五輪に出場した12チームのスパイク、サーブ、ブロック、レセプション(サーブレシーブ)、ディグ(スパイクレシーブ)などの決定率や効果率、返球率といった全てのデータです。とにかく、「数字で表せることは全て」というぐらいの要求を渡辺にしました。


 ちなみに、スパイクの決定率と効果率の違いを説明すると、例えば、10本打って5本決めれば、決定本数を打数で割った50%が決定率になります。一方、決まらなかった本数のうち、失点につながったものを計算した数値を効果率と呼んでいます。仮に、10本打って決まらなかった5本のうち、ミスが1本、ブロックされたのが1本による2点の失点があったとします。この時のスパイク効果率は、決まった5本からミス分の2本を引いた3本を、さらに打数(10本)で割った30%ということになります。

 AとBという2人の選手がいずれも10本うち5本決めれば、決定率はともに50%です。しかし、自らのミスによる失点がAは0、Bが2点の場合、Aの効果率は50%で、Bは30%という異なる数値になり、1つの判断材料になるわけです。


 渡辺は、データバレーで分析した細かい数字をより精査し、分かりやすい形に加工した上で出してくれました。監督や各コーチ陣の戦術に合わせたデータを出すようにリクエストされることもあり、大変な作業だと思います。ただ、ありとあらゆる材料を集めた上で、より的確な決断、緻密な戦略へとつなげたいという考えが私にはありました。データを広げて、コーチ陣と何度も話し合いながら、私は世界ではどうすれば勝てるのか、世界で勝つにはどんなプレーが求められるのかという仮説(=結論)を導きだしていきました。

大きな目標から小さな目標に落とし込む

 そうして「ロンドン五輪に向け、まずは2年後の世界選手権で3位以内に入ろう」という具体的な目標が生まれ、スパイク効果率が全チームの3位以内に入ればメダルに近づけるということも分かりました。目標が定まれば、何をどうすればいいのか、という小さな目標に落とし込む必要があります。そこで、分かりやすいようにセット単位で分析したところ、1セットを取るためには、スパイク効果率が相手チームよりも上回れば、90%の確率で勝てると割り出しました。


 選手には、ブロックで止められたり、アウトにするようなスパイクの失点を、1セット4失点以内に抑えられれば、90%の確率で勝てると伝えました。「スパイク効果率が全体の3位以内」というよりも、「1セットでスパイクの失点は何点以内」といった、できるだけ実感の湧く数字に翻訳することが大事です。選手たちの目指すべき目標、やるべきことが明確になりますから。


 ただ、過去のデータは試合中に刻々と変わります。「データバレー」の情報は私が手に持つタブレット端末に送られ、試合中もリアルタイムでチェックできます。その効果は絶大でした。例えば、クロススパイクが多いと事前のデータに出ていた相手チームのエースは、その試合ではストレートで打っているということが分かり、ブロック戦術を変更するなどの素早い対応につながりました。こうしたデータバレーによる成功の積み重ねは、選手たちの監督やコーチ陣への信頼にもつながり、選手自身の自信になって好循環を生みます。

データを継続的に見て分析する力も必要

 データは万能ではなく、数字だけでは見えないものもたくさんあります。例えば、スパイク決定率が10%を切った選手がいたとします。しかし、日々の努力が垣間見られる選手ほど、試合中にV字回復するケースがある。数日の統計とにらめっこしながら、「この選手はV字回復できる選手なのか、できないのか」と考えながら、メンバーチェンジなどのタイミングを判断する時があります。一時的な数字だけでなく、継続的に見て傾向を把握できる分析力を磨くことも大事だと思います。


 こうしたデータ分析をもとに、私はあらゆる事態を想定しながら、勝つためのシミュレーションを毎回行います。そして試合前日には、データ通りにいかないことも含め、常に最悪の事態も想定しておきます。あらゆる可能性を考えて、その時はどう対処するかと頭の中でシミュレーションしておくのです。すると、少しのトラブルでは焦らなくなります。分析したデータが軸にあるからこそ、あらゆるシミュレーションができ、心の準備につながるのだと思います。

高島三幸

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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