責任感を芽生えさせる「コーチ分業制」=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第5回

高島三幸

世界で勝つために、眞鍋監督(上段左端)はこれまでの女子バレーになかったコーチ分業制を導入した 【坂本清】

 2012年ロンドン五輪で全日本女子バレーボールチームに銅メダルをもたらした眞鍋政義監督。09年の就任以来、女子選手と信頼関係を築くコミュニケーション方法や、データを最大限に活用した指導や戦術を打ち出し、次々に結果を残してきた。

 そんな“眞鍋流”チームづくりは、選手だけでなく、コーチ、トレーナー、マネージャーといったスタッフ陣に対しても行われている。その中でも、特に成功を収めた戦略がある。眞鍋監督いわく、それはこれまでの女子バレー界にはなかったものだという。

世界で勝つために指導体制を見直し

 女子のチームジャパンが五輪でメダルを獲得する上で、最も効果が高かった戦略は、「コーチ分業制」の導入だと思っています。コーチ分業制とは、サーブ、レシーブ、ディフェンスなど、それぞれのポジションに専門のコーチを置いて練習や指導を任せる仕組みです。

 ピッチングコーチやバッティングコーチがいる野球などの他の競技では、コーチ分業制は当たり前かもしれません。しかし、女子バレーはこれまで、トップである監督の意向がすべてであり、カリスマ性を持った監督が全ポジションを指導し、チームを引っ張っていく形が当たり前とされてきた世界でした。高校バレーならそれでいいかもしれません。しかし、社会人として、そしてチームジャパンとして世界と戦う中で、果たして本当にその体制で勝てるのかという疑問は、常に私の中にありました。

 そこで考えたのが「コーチ分業制」です。この体制を取る理由は大きく2つあります。1つは、私には、選手たちが黙ってついてくるようなカリスマ性はありませんし、突然カリスマ性が身に付くこともないからです。特に全日本の監督になってからは、私だけの考えで、世界で勝てるなどとは最初から思っていませんでした。何よりも、私が武器にできるのはセッターの経験だけです。であれば、私の専門領域以外のポジションは、その道のスペシャリストに任せた方が、より目標に近づきやすくなると考えたのです。

 もちろん、今までの全日本にもコーチはいたのですが、監督の求心力が強ければ強いほど、コーチとしての能力や役目がうまく生かされていないように感じます。例えば、選手たちの視線がすべて監督に注がれれば、コーチは、“サーブレシーブ練習のためのサーブを打つ係”というような位置づけになりかねません。それでは、コーチのモチベーションも湧かず、せっかくの能力が生かしきれないとも思うのです。

 2つ目の理由は、チーム全体の熱を高めるためです。「世界一」になるという目標に向かって、私や選手は必死に努力します。コーチ陣も「世界一を目指す」と口にしますが、どこかしら、われわれとの温度差があるように思いました。それは、コーチに“責任”がないからです。役目はあっても役職がない。だからこそ、分業制にしてポジションと役職を持たせ、モチベーション高く自身の役割に取り組んでもらうことにしました。
 試合期間も練習時も、スパイク決定率やレシーブ効果率などの数字を毎日貼り出すので、選手同様、役職が与えられたコーチも、その成績が自身への評価に替わり、奮い立たされます。この時、「世界一になる」という思いの温度が、われわれと一緒になるわけです。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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