責任感を芽生えさせる「コーチ分業制」=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第5回

高島三幸

コーチのやる気を上げる“マスコミ利用法”

指導などは各コーチ陣に任せているという眞鍋監督だが、サポートやフォローは決して怠らない 【スポーツナビ】

 私は、コーチ陣のモチベーションを上げるために、マスコミに「うちのコーチ陣は素晴らしい」と4年間、言い続けてきました。すると、2年目以降からコーチに取材が入るようになりました。コーチやアナリストに取材が入るのは、女子バレーだけではないでしょうか。日々の努力が結果となり、世間からも注目されれば、誰だってさらなるやる気につながりますよね。実際、彼らは大事な連戦では、2〜3時間の睡眠時間で戦っています。そうした努力が、チームジャパンを世界3位に押し上げた1つの理由であることは間違いありません。表に出ない事実に光を当て、世間からの評価を受けることも、チームを勝たせる上で大切な手法ではないかと思います。

 現在、戦術・戦略コーチに川北元、サーブコーチに水野秀一、ブロックコーチに大久保茂和、ディフェンスコーチに斉藤健次、そしてアナリストに渡辺啓太と、それぞれのスペシャリストに任せています。オフェンスはセッター出身の私が担当。ミーティングでは、戦術・戦略コーチの川北が中心となって話し合っています。

 私がコーチとして任せたいと思う人材は、まず、“バレー小僧”であること。バレーボールが大好きで、シーズンオフには、自主的に海外に飛んで、相手国の現状を研究してしまうような、そんな情熱を持った人たちです。次に、選手やコーチ陣とうまくコミュニケーションが取れる能力や、信頼したいと思える人間性を持ち合わせていること。そして何より、コーチとして日の丸をつけることに誇りを持っていることです。大半のコーチが、バレー経験はあっても日の丸をつけて戦ったことがない人ばかりです。もちろん五輪経験選手がコーチになればベストですが、現役時代はそれがかなわず、日の丸をつけたいという並々ならぬ思いを女子選手に託しているからこそ、彼らは必死になれるのではないでしょうか。

全員が自分の頭で考え、実行するチームづくり

 そんな彼らですから、役割を任せることで、さらに目標達成意欲と自主性が高まります。ミーティングとは別に、毎晩9時ごろになると、コーチ陣が合宿所のリビングルームに自然に集まり、選手の状況について情報を共有し合っています。例えば、「木村はサーブの調子は良いけど、レシーブが悪くて」などの話題になれば、「じゃあ、明日はレシーブ練習を少し手厚くするか。Aコーチが木村選手に話してくれ」などという話になります。このように、コーチ間で選手の日々の状況について共通認識を持つことで、微調整を図っていくのです。分業制だからこそ、横の認識もしっかり持つ。バレーボールはそれぞれのプレーがうまく流れて点数につながりますから、毎日のこの自主的に集まる時間はとても貴重です。

 また、指導方法などは、各コーチ陣を信頼して基本的には任せていますが、数字の下降が一過性のものではなく、継続すれば、私も「今の練習はどうだろうか」と口を挟みます。コーチをサポートするための助言を試みたり、アイデアを再度練らせるように導く。そのフォローは決して怠りません。

 チームジャパンが世界で勝つためには、選手、監督、コーチ、トレーナーなどのスタッフ全員が自らの役割を理解して、自分の頭で考え、実行することが必須だと考えています。そのためにも、一人一人に“責任”を植え付けるような役職やポジションを導入し、きちんと成果を評価するようなシステムづくりが、志の高い人が集まったプロ集団を生むのではないかと私は考えます。

<この項、了>

プロフィール

眞鍋政義(まなべ まさよし)
1963年兵庫県姫路市生まれ。大阪商業大在学中に神戸ユニバーシアードでセッターとして金メダルを獲得し、全日本メンバーに初選出。88年ソウル五輪にも出場した。大学卒業後、新日本製鐵(現・堺ブレイザーズ)に入団。93年より選手兼監督を6年間務め、Vリーグで2度優勝。退団後、イタリアのセリエAでプレーし、旭化成やパナソニックなどを経て41歳で引退。2005年に久光製薬スプリングスの監督に就任し、2年目でリーグ優勝に導いた。09年全日本女子の監督に就任し、10年世界選手権で32年ぶりのメダル獲得に貢献。12年ロンドン五輪、13年のワールドグランドチャンピオンズカップで、それぞれ銅メダルに導く。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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