データの力は女子チームでこそ発揮される=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第4回

高島三幸

数字を示して指導することで、チーム内の公平性を保てるようになったという眞鍋監督 【スポーツナビ】

 2016年リオデジャネイロ五輪での金メダル獲得を目指す、全日本女子バレーボールチームの眞鍋政義監督。データバレーを駆使した戦術は、12年ロンドン五輪でチームに銅メダルをもたらした指揮官の代名詞にもなっている。

 しかし、女子チームを率いるようになるまでは、今ほどデータを活用することはなかったという。眞鍋監督はなぜ数字を必要としたのか。また、チーム内でどのように活用しているのか。眞鍋監督いわく、きっかけは女子チームならではのある出来事だったという。

女子チームに重要な公平性

 05年、久光製薬スプリングスの監督になった私は、初めて女子チームを指導しましたが、戸惑うことばかりでした。私には姉妹もおらず、高校も男子校、実業団も男性ばかりですから、女性の気持ちがよく分からず、私がミーティングで発言しても、“様子見”をしているようで反応が薄い。女子選手たちはいったい何を考えているのか、分からなかったのです。

 そこで自分をさらけ出すことから始めた私は、失敗談も含め、何でも話すように心掛けました。全員でのミーティングよりも個別に顔を突き合わせて話した方が、本音も出てきますし、心も近くなったような気がしました。

 しかし、ある時、強打のレシーブが苦手な選手に私がスパイクを打って個別練習をしていると、「監督は一人だけ特別扱いをしている」という声が挙がりました。女子の場合、監督やコーチが特定の選手に関わると、ねたみに変わりやすい。女性のねたみは怖いです(笑)。一転して反抗に変わりますから、チームがまとまらなくなる。私の使命は勝つチームを作ることですから、それでは困ります。女子チームをまとめるには、公平性を保つことが重要だと身をもって知り、このころから、たわいもない雑談も、特定の選手に偏らないようにまんべんなく声を掛けるようにしました。 

数字で可視化し、納得を引き出す

 誰もが納得できて、公平性を期するものは何か。考え抜いた末にたどり着いたのが、数字でした。根拠となる数字を示しながら指導すれば、公平性や客観性を保つことができ、選手も周りも納得せざるを得ません。

 例えば、各選手の成績を数字で可視化し、先発メンバーの選定基準にしました。それは、大きな大会だけでなく、紅白戦や日頃の練習での選手のパフォーマンスもアナリストに分析してもらい、スパイク決定率や効果率、レセプション返球率、サーブの効果率などを、細分化して数字に落とす。これをコーチや選手全員に毎日メールで配信したり、貼り出したりします。数字の良かった選手は黄色、悪かった選手は赤色など一目で分かるようにしました。いわば、毎日テストの成績が届くわけです。それも、皆が分かるように。

 最初は選手に不評でした。女性は特に数字で評価されることを嫌がる傾向にあるように思います。それは今も同じでしょう。でも、先発メンバーを数字が良い順から6人を選ぶことは、そこには私の感情や“特別扱い”が入っていませんから、文句の言いようがないのです。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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