データの力は女子チームでこそ発揮される=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第4回
データが示す現状に向き合う
いつでもデータが見られるよう、眞鍋監督はタブレット端末を片手に試合に臨む 【坂本清】
「数字が悪くて居心地が悪いのなら、そうならないように努力しよう」「数字を上げるために、どんな練習が自分にとって必要なのかを考えよう」などと声を掛け、選手自らが自発的に行動できるように促すのです。
数字は明快ですから、どの部分が自分にとって強く、弱いのかが一目瞭然になる。自分で考えつつ、次第に選手はその数字の意味することが気になってきます。特に、成長意欲が高い選手ほど、その傾向が強い。コーチにも相談しやすくなりますし、コーチ側も指導するにあたって、どの部分が足りないのかという原因を突き止め、だったら次に何をすればいいのかという指針が明確になります。
数字は試合中も役立ちます。例えば、全日本女子バレーボールの試合でも、タイムアウトやセットの合間に、当時の代表セッターだった竹下佳江を呼んで、リアルタイムに変化し続ける現状を伝えるために、タブレット端末で数字を見せていました。
コートの中に立っていると、プレーが与える印象によって、現状と多少の誤差が生じることもあります。例えば、強烈なスパイクを一本決めると豪快で調子の良い印象を受けますが、実際にはスパイク決定率が下降気味のスパイカーもいる。そんな時に、合理的な数字を見せることで、竹下の脳裏に客観的な情報がプラスされ、より冷静に、より得点力を上げられるプレーへと近づいていくのです。
数字は万能ではない 数値化できないものも大切に
想像を絶するプレッシャーの中でのプレーは、データによる数字だけが絶対ではありません。勝つために、最後に必須なのは間違いなく“強いハート”で、数字は決して万能ではないのです。そんな数字で解明できないプレーはもちろん、人間性や練習に対する姿勢なども数値化できません。監督としては、この数値化できない部分も加味して評価することが大事だと思っています。なぜなら、時としてこの数値化できないものが、チームメンバーの士気を高めて結束につなげたり、思わぬ力になったりするからです。
数字は公平性を保つだけでなく、選手自らが現状と向き合い、チームの戦術を有利に導くために欠かせないものです。そして、その数字を効果的なプレーに生かすためには、監督と選手、コーチと選手、監督とコーチといった、チーム内の普段からの信頼関係が必要です。数字を根拠に、選手を成長させる方法を、そして勝つ方法を監督は必死で考え、その熱意と本気度を彼女たちに伝え続けていく努力も大切なのでしょう。
<この項、了>
プロフィール
1963年兵庫県姫路市生まれ。大阪商業大在学中に神戸ユニバーシアードでセッターとして金メダルを獲得し、全日本メンバーに初選出。88年ソウル五輪にも出場した。大学卒業後、新日本製鐵(現・堺ブレイザーズ)に入団。93年より選手兼監督を6年間務め、Vリーグで2度優勝。退団後、イタリアのセリエAでプレーし、旭化成やパナソニックなどを経て41歳で引退。2005年に久光製薬スプリングスの監督に就任し、2年目でリーグ優勝に導いた。09年全日本女子の監督に就任し、10年世界選手権で32年ぶりのメダル獲得に貢献。12年ロンドン五輪、13年のワールドグランドチャンピオンズカップで、それぞれ銅メダルに導く。