高橋大輔、感謝の『ビートルズメドレー』=フィギュア プログラム曲紹介Vol.6
集大成の五輪で、高橋大輔がつづる『ビートルズメドレー』のエピソード 【坂本清】
高橋のラストタンゴ「滑りこなせるスケーターは彼だけ」
1曲目は、弦楽合奏とギターの音色が美しい「イエスタデイ」。キューバが生んだ名ギタリストで作曲家のレオ・ブローウェルがアレンジしたもので、それをセルシェルがさらにカバーしています。郷愁を帯びた旋律をバックに、「白」い衣装(12月の全日本選手権では紺に)の高橋選手がエレガントに滑走する様子は、風に舞う一片の羽根を思わせます。
続く「カム・トゥゲザー」は、高橋選手の真骨頂であるタンゴ。振付師のローリー・ニコルさんが長年温め続けてきた曲だそうです。フリーの楽曲作りは、この「カム・トゥゲザー」を中心に進められたとのこと。「このタンゴバージョンを滑りこなせるスケーターは彼だけ」。そう言わしめた高橋選手のラストタンゴを、五輪という大舞台で見ることが出来るのは、ファンとしても幸せなことです。
魂を揺さぶるようなバンドネオンは、ノルウェー人アコーデオン奏者ペル・アルネ・グロルヴィゲンによる演奏です。バンドネオンはアルゼンチンタンゴには欠かせない楽器ですが、鍵盤の代わりにボタンがたくさん並んでいる小さなアコーディオンをイメージしてください。
基本的にパーカッションを置かないアルゼンチンタンゴでは、時々バンドネオン奏者がボディーの木の部分をたたいてリズムを刻みます。「カム・トゥゲザー」の曲終わりにあるドアをたたくような、あるいは靴音のように聞こえるのがそれにあたります。緊張感のあるリズムに合わせた高橋選手の足さばきが、次に控えるゆったりとした流れに対して、効果的なメリハリを与えています。
アルゼンチンタンゴは、首都ブエノスアイレスの旧港があるボカ地区が発祥の地。スペインやイタリア移民の貧しい港湾労務者たちが鬱憤(うっぷん)晴らしに男同士で踊っていたのが始まりです。やがてそこに娼婦が加わり男女の踊りになったという経緯があります。ヨーロッパで発展を遂げたコンチネンタルタンゴと違って、荒々しさがあるのはそのせいかもしれません。高橋選手の振り付けにも、そんなワイルドなセクシーさを感じます。
友情の証し「フレンズ・アンド・ラバーズ」
レノンという天才が生み出した原石を、優れた商業作品にまで磨き上げたジョージ・マーティン。二人の間には絶大なる信用と尊敬がありました。その関係は、フィギュアスケーターと振付師にも重なるものかもしれません。
最後を締めくくるのは、「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」。合唱曲の分野で有名な音楽家、ジョン・ラッターのアルバム『ビートルズ・コンチェルト(Third Movement)』に収められているカバー作品です。演奏しているのは、英国最古のオーケストラの一つであるロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団です。
グランドフィナーレへ
五輪でのグランドフィナーレの時は、もうすぐそこに 【坂本清】
1曲目の『イエスタデイ』にもそんな話があります。ポールは当初「イエスタデイは自分の元を去った恋人を想う歌」だと考えていたようです。しかし、後になってこの曲の詞は「若くして亡くなった母への想い」であることに気が付いたということです。作っていた当時の若いポールには分からなかった本質が、そこにはあったようです。
プログラム曲に対するアプローチは選手によってさまざまで、そこに正解はありません。作者の意図や時代背景、ストーリーや主人公の心の動き、そこに込められた哲学までもを演技に取り込む選手がいる一方で、曲が自分に与える印象を第一にし、そこにオリジナルな解釈を乗せていく選手もいます。高橋選手はどちらかといえば、後者のような気がします。
豪華絢爛なオーケストレーションをバックに、華麗にリンクを舞う高橋選手。ダイナミックなスピンによるグランドフィナーレの後には、きっと晴れ晴れとした笑顔があるはずです。でも、わたしたちファンは泣いているかもしれませんね。
<了>
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