画期的新戦術を生んだシンプル思考法=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第2回

高島三幸

画期的な新戦術が生み出された背景には、眞鍋流のシンプル思考法があった 【坂本清】

 28年ぶりに、ロンドン五輪で全日本女子バレーボールチームに銅メダルをもたらした名将、眞鍋政義監督。組織における女性の能力を最大限に生かし、データバレーを駆使した戦術には定評がある。

 11月に行われたワールドグランドチャンピオンズカップ2013(グラチャン)では、全日本女子を銅メダルに導いた。しかし、手にしたのはメダルだけではない。進化を果たすべく、同時に新戦術を実践の場で試していた。
 なぜ今、新しい戦術が必要だったのか。挑戦や変化が求められるときに心がけるべきこととは何か。眞鍋監督にその背景を聞くと、チームをワンステップ上のレベルへと引き上げるためのユニークな考え方が見えてきた。

身体能力で劣る日本人選手が勝つ方法を

 11月に開催されたグラチャンで、全日本女子バレーボールチームは3位になり、12年ぶりのメダルを獲得しました。
 この大会でわれわれは新戦術にチャレンジしました。通常、コートに2人いるミドルブロッカー(MB)を1人に減らし、代わりにウイングスパイカーを増やして4人体制にしました。ミドルブロッカーは攻撃もしますが、ブロックの要となる役割もあります。攻撃の要であるウイングスパイカーを増やすことで相手のブロックを分散させ、得点率がアップすると考えたのです。戦術名は「MB1」。
 
 私が新しい戦術にチャレンジしなければいけないと思ったのは、2年前にさかのぼります。11年のワールドカップで4位になり、その時点で翌年のロンドン五輪の切符をつかめませんでした。その悔しさがいつまでたっても脳裏から離れず、何とかして世界のトップに競り勝つ方法はないかと考え、ずっと温存させていたのです。身長も身体能力も勝る外国人選手に日本人選手が勝つにはどうすればいいのか。どの国もやらない画期的な戦術が必要だと思わざるを得ませんでした。

固定観念を捨てて発想の幅を広げる

 新しい戦術を立てるときは、蓄積したデータや相手の戦術を見直し、材料となるものを全て把握した上で考え始めます。特に重視したのは、「〜は当然だ」「〜しなければいけない」という、自分自身が何十年と携わってきたバレーボールに対する固定概念を払拭(ふっしょく)することでした。すると、今まで見えなかったことが見えてきて発想の幅が広がります。
 さらに、思考をできるだけ削ぎ落とし、シンプルに考えるようにします。例えば、試合で勝つための“そもそも論”を考える。当たり前ですが、バレーボールは25点を先取したチームが勝ちです。さらに乱暴なことを言うと、点数を多く取れる6人の選手を入れたチームが勝ちますよね。

 ではどうすればいいか。過去5年分のデータを見たところ、得点力が低いミドルブロッカーよりも、得点力が高いウイングスパイカーを増やした方が、得点率はアップするという視点が見えてきました。「ミドルブロッカーの得点力不足」というネガティブ要因を、ウイングスパイカーの増員でポジティブ要因に変換すればいいのです。あらためて考えると、まあ、自分でもよくこんな発想をしたなと思います(笑)。海外チームは絶対にやりません。ミドルブロッカーはしっかり点数を稼いでいますから。

モチベーターとして選手の頑張りを引き出す

グラチャンでは銅メダルを獲得。新戦術をチームに浸透させるため、眞鍋監督はモチベーターに徹した 【坂本清】

「仮説は実証して初めて真実になる」という言葉があるように、「MB1」を世界の舞台で試す必要がありました。問題はいつ試すのか。昨年はロンドン五輪がありましたし、今年9月の世界選手権アジア最終予選は、来年の本戦への切符が懸かっていたので、冒険ができなかった。チャンスはこのグラチャンしかなかったのです。

 予選に集中させるために、新戦術を取り入れることを選手に告げたのは、9月のアジア最終予選が終わった直後。グラチャンまで1カ月ちょっとしかありませんでした。そんな短期間で、新しいフォーメーションや戦術をチームに浸透させなければいけない。そこは選手に頑張ってもらうしかありません。そのために私は、彼女らのベクトルをそろえ、やる気を高めるためのモチベーターに徹する必要がありました。コーチ陣としっかり準備しながら練習に入ったのです。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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