画期的新戦術を生んだシンプル思考法=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第2回
変化するためにまず必要なのは「現状把握」
落ち込んだ選手には、チームでサポートする必要があると眞鍋監督は語る 【坂本清】
そこで、世界と日本の現状を比較できる数字を見せます。現状把握こそ、変化やチャレンジするための第一歩です。日本が置かれている現状を知り、そこから最終目標である、16年リオデジャネイロ五輪で金メダルを取るために何が必要かを話します。その上で、新しいことにチャレンジする理由や意味を説明する。その戦術の可能性や、五輪までのスパンで試せるのはグラチャンしかないという、今やる必要性も訴えます。
選手たちから批判のような反応はありませんでした。ただ、ミドルブロッカーの選手は落ち込んでいました。当然です。レギュラーの枠が減るんですから。でも、それは仕方ない。過去、誰がそのポジションについても得点が取れなかったのです。それが日本チームの現状ですから、納得せざるを得ない。ミドルブロッカーたちはこの課題をあらためて受け止め、奮起してくれると信じています。
一方、いくら納得できても、新しいことにチャレンジするときは、リスクや不安が伴います。選手たちも「本当にうまくいくのだろうか」「通用するのだろうか」と、ふたを開けてみるまで不安に感じていたかもしれません。そうしたチーム内に漂う不安を少しでも取り払うために監督に必要なのは、“覚悟”だと思っています。「結果が出なかった責任はすべて監督にある」と、選手に示してあげるだけでも不安を軽減させ、思い切ったプレーにつながります。今までどんな試合でも、私はそうした覚悟を持って挑んできました。達成できなかったときは、トップが潔く責任を取ればいい。そもそもナショナルチームの監督は長くやれるものではないと思っていますから。
落ち込んだ選手にはチーム全体でサポートを
自他ともに認めるポジティブ人間の私は、たとえ結果が悪くても、「3年後に金メダルを取るために失敗したんだ」と思えるのであまり落ち込みませんが、そこまで潔く気持ちを切り替えられる選手はそう多くはありません。そんな選手には、チームでサポートする必要があると思っています。私が個人的にその選手に話してもダメなら、その選手により近い存在のコーチやスタッフ、先輩選手などが話せばいい。私の頭には、選手やコーチの特徴が入っていますから、誰が誰に話せば効果的なのかということも考えられます。チーム力で選手をポジティブな思考へと導くなど、たとえチャレンジが失敗に終わっても、アフターフォローできる環境を用意しておくことは大事です。
五輪後の翌年は、各国がどのような方向性にいくのかを見極める年でもあります。現状を把握して予測しながら、次の一手を練っていく。今回の新戦術の結果は手応えを感じました。ただ、もちろん課題もあります。これから3カ月でじっくり検証し、スタッフたちと議論を重ねながら、このままこの戦術を続けるのか、やめて元に戻すのか、「MB0」などさらに別の形に進化できる余地はあるのかなどを考えていくつもりです。
<この項、了>
プロフィール
1963年兵庫県姫路市生まれ。大阪商業大在学中に神戸ユニバーシアードでセッターとして金メダルを獲得し、全日本メンバーに初選出。88年ソウル五輪にも出場した。大学卒業後、新日本製鐵(現・堺ブレイザーズ)に入団。93年より選手兼監督を6年間務め、Vリーグで2度優勝。退団後、イタリアのセリエAでプレーし、旭化成やパナソニックなどを経て41歳で引退。2005年に久光製薬スプリングスの監督に就任し、2年目でリーグ優勝に導いた。09年全日本女子の監督に就任し、10年世界選手権で32年ぶりのメダル獲得に貢献。12年ロンドン五輪で銅メダルに導く。