日米に見る野球に対する考え方の違い=MLBを陰で支える日本人が感じる課題
マッサージセラピストとして、メジャーリーガーたちの華やかなプレーを陰で支えている西尾氏にインタビュー。今季途中からメッツ入りした松坂らにもマッサージを施した 【Getty Images】
そうした日本人選手の活躍の中、「プロ中のプロを相手にしたい」と海を渡った男がいる。ニューヨーク・メッツでマッサージセラピストを務めている西尾嘉洋さんがその人だ。マッサージセラピストとは、マッサージや鍼治療を施し、選手の体調管理や疲労回復、けがからの復帰を手助けする仕事で、メジャーリーガーたちの華やかなプレーを陰で支えている人物の一人と言える。
今回、スポーツナビでは、一時帰国中の西尾さんにインタビュー。日本人とメジャーリーガーの違い、海外から見た日本野球の課題などを語ってもらった。
松坂は万全、来年が楽しみ
西尾氏が、海外から見て感じる日本と米国の野球観の違いを語ってくれた 【スポーツナビ】
1997年にJBATS(Japan Baseball Athletic Trainers Society)主催のインターンで、アリゾナキャンプに行きました。日本では中日のトレーナーをしていたのですが、その時に野球を教えに来ていたダン・スロートがパドレスにいて、私のことを覚えていてくれたんです。そうしたら、彼が「ヨシはマッサージと鍼がすごくうまいんだよ」と、当時の主力選手、トニー・グウィンやケン・カミニティ、トレバー・ホフマンを紹介してくれ、インターンであるにも関わらず、私のマッサージを受け入れてくれたんです。
これをきっかけに、1997年から2004年まで、いろいろな複数の球団でパートタイムで働き、徐々にクライアントが増えていき、2004年のメッツで初めてチーム専属として雇われました。その後はロッキーズ、アスレチックスと渡り、そして今は再びメッツでお世話になっています。
――04年のメッツというと、松井稼頭央選手が在籍していましたが?
もともとは当時のメッツ監督、アート・ハウにアスレチックスでパートタイムで働いていたときにお世話になっていて、ハウが松井さんが1年目ということで、私を呼んでくれたようです。
松井さんには専属のトレーナーがいましたので、それほど多く接したわけではありません。たまたま同じチームにいたというところです。あくまでメジャーのチームに必要とされていて、日本人に必要とされたわけではないんです。
――そうですか。しかし、今も松坂大輔選手がメッツに在籍していますね。
2回くらいマッサージをさせていただきました。彼も専属のトレーナーがいますので、基本的にその方が治療を行います。
――松坂選手の体を見ていると思いますが、体の状態は問題ないでしょうか?
もう問題ないと思いますよ。彼とは1カ月、いっしょにいましたが、本当に来年が楽しみだと思いました。体自体は万全に近いと思います。
“試合のため”が根本のメジャー
ほとんど違いはありません。一流の選手はプロ野球もメジャーリーガーもキチンと自分の体のことを把握していて、自分のことについては自分が一番知っているという人ばかりです。だから、自己主張して「今日はここをやってくれ」といった要望は常に出してきます。
デービッド・ライト(メッツ)は1週間に1〜2回、必ず私の治療を受けるのですが、とにかくストイックに自分の練習プログラムをこなします。トレーニングコーチは見ているだけですよ。自分のコンディションに合ったプログラムをメジャーリーガーは持ってますから。その点で、ライトはコンディショニングに対する姿勢など尊敬します。
強いて言えば、メジャーリーガーは試合後に治療を受けません。そこがプロ野球と違う点でしょうか。
――それはなぜでしょうか?
メジャーリーガーの考え方として、ベストパフォーマンスを出すために、試合前に筋肉をほぐす。あくまで“試合のための治療”というのが浸透しています。
日本では試合前、試合中、試合後と治療を施すのですが、米国の場合、試合前と試合中です。私の場合、ホームのナイターだと、13時に球場入りして、ローテーションピッチャーや野手のケアをします。試合が始まると、ブルペンピッチャー、試合中盤でクローザ―に対し、マッサージなどを行っています。
――体調管理の方法やトレーニングは米国の方が進んでいると感じますか?
そんなことはありません。日本の方が進んでいる面もあります。ただ、プロ野球とメジャーリーグを両方見てきて感じるのは、日本の場合、監督やコーチに「やらされている感」が強いように感じます。
日本では11月まで秋季キャンプで練習をしますよね。米国ではウインターリーグをします。ゲームをやって、足りないところをトレーニングで補う。だから、メジャーリーガーはゲーム慣れしていて野球のうまい選手を育てようとしています。メジャーには“試合でベストパフォーマンスを出すためには”が根本にあります。マッサージや練習も、「ゲームのための」なんです。だから、米国では「やらされてる感」のある練習はないんです。