日米に見る野球に対する考え方の違い=MLBを陰で支える日本人が感じる課題

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日本は少し投げすぎ、メジャーは投げなさすぎ

NPBとMLBの根本的な違いは「『振り落とし』のメジャーと、『底上げ』のプロ野球」にあると話す西尾氏 【スポーツナビ】

――今季メジャーに移籍した藤川球児選手が右ひじ内側側副じん帯の断裂でトミー・ジョン手術を受けました。そのほか、松坂選手、和田毅選手も海を渡ってひじ・肩を故障。ダルビッシュ有選手も右肩の張りでオールスターを辞退しましたが、マッサージセラピストとして、いろいろなメジャーリーガーを見ている西尾さんから見て、なぜだと思いますか?

 マウンドの硬さの違い、背筋の強さやリズム感の違いが大きいと思います。リズム感っていうのはすごく大事なんですよね。メジャーのスピード、リズム感についていこうとする結果、故障が増えてるんじゃないかと僕は思います。リズム感というのは、簡単に言うと、ラテン音楽と演歌の違いのようなものです。
 背筋に関しては、日本人には持ってない筋力を中南米の選手は持っていますね。日本人にはないパワーを持つ選手たちに対抗しようとして、無理が出てくる。そしてけがをするという流れのような気がします。
 ただ一方で、足の筋肉は日本人の方が強いと思いますよ。

――ピッチャーで言うと、「日本の練習、試合は投げすぎだ」という話題がたびたびクローズアップされます。

 私が思うに、日本は少し投げすぎ、メジャーは投げなさすぎだと思います。メジャーも投げながら調整することは必要だと思います。
 ウェイトトレーニングでつけた筋肉と、投げ込みでついた筋肉は明らかに違います。投げ込みが足りないと、投げるための「強さ」が足りないように思いますし、投げ込みが多すぎても疲労が筋肉にすぐ現れるので分かります。
 ただ、日本人投手の投げるスタミナはすごくあるように思いますね。

 高校野球で毎年のように話題になることを知っていますが、高校生の方々にはまず自分の体のことを知ってもらいたいと思います。時にはある程度、やらなくてはならないときがあるでしょう。その時、自分の体のことを知っていれば、越えちゃいけない点を監督ではなく、自分で見極めることができます。先にも言いましたが、プロ野球でもメジャーリーガーでも一流の選手は自分の体をよく知っていて、自分の体によく相談して、コンディショニングを見極めた上で、やるべきトレーニングを行っています。若いからではなく、若いうちから、そういう術を身につける訓練をしてもらいたいと思います。

練習も体のケアもメジャー化することも大事

――今後も日本人メジャーリーガーが増えていくと思います。体調管理の部分で気をつけないといけない面はありますか?

 日本でやってきたことをリセットして、練習も体のケアもメジャー化することも大事だと思います。食生活についても日本食にこだわるだけじゃなく、他の選手と同じものを食べることも必要だと思います。

――メンタルの面で感じることはありますか?

 メジャーリーガーってすごく大人なんですよ。メジャーの選手はマイナーでメンタル的にも強くなっています。私はマイナーの時期がすごく重要だと思います。

 昨年、大谷翔平選手がプロ野球か直接メジャーリーグに挑戦するかという話がありましたね。個人的なお話をさせてもらうと、私は、大谷君にマイナーからはい上がってもらい、競争に打ち勝っていくコツを身に付けた方が良かったのではないかと思いました。過酷なところを目の当たりにして、安い給料、劣悪な環境の中でもメジャーを夢見て練習するのも、こちらの選手たちが強い要因なのかなと思います。

――世界中からトップアスリートが集まってくる世界で、勝ち残っていくためには相当の努力が必要ですよね。

 メジャーというのは「振り落とし」なんですよ。プロ野球は「底上げ」社会。メジャーでは振り落とされないためにはどうすれば良いか、ということを常に考えさせられます。この違いが自ずと選手を大人にしていきますし、体調管理やトレーニングについての姿勢も変えていくことになります。

 層が厚いんで、代わりの選手はいくらでもいる。日本人選手はけがからポジションを奪われるケースも多々あると思います。でもこれは日本人に限らず、どの選手でも一緒。逆もあります。日本から来た選手が良くて、今までやっていたドミニカ人や米国人が「振り落とされる」ことは、メジャーの世界ではよくあること。あくまでも競争の世界なんですよね。

――今季、ダルビッシュ選手と岩隈選手がサイ・ヤング賞の最終候補に選ばれるなど、活躍を見せました。

 そうですね。これから日本人がもっとメジャーで活躍すれば、メジャーは身近なものになってきて、日本のプロ野球からではなく、メジャーを直接目指す子どもたちが出てくるかもしれません。ただ、それによって日本のプロ野球が衰退するかというと、そうではないと私は思います。

 プロアマ問題が日本にはありますが、もっとプロとアマが雪解けする必要があると思います。良い指導者が育ち、指導者がもっと増えて、アマチュア選手が育つ環境が整えば、野球人口は増えると思います。
 また、一時期、日本が不景気になって、野球をする子どもが減ったと言われましたよね。野球はバット、グローブと買えそろえる道具が多いので、親世代があまりやらせたくないという話を聞いたんです。ただ、日本の景気も上がってきていますし、もっと野球人口が増えてくれたらうれしいですよね。

リベラの球宴ラストマウンドを手助け、一生の思い出に

直前まで西尾氏にマッサージを受けていたリベラは1イニングを完璧に抑え、オールスターMVPを獲得した 【Getty Images】

――西尾さんら日本人のマッサージセラピストが米国で受け入れられているのはなぜなんでしょうか?

 米国人トレーナーはマニュアルに沿って治療をすることが多いんですが、私は米国人トレーナーの手の届かないところ、日本人的な治療ができればと思って、取り組んでいます。細かい筋肉をほぐしたり、リラックスさせたり……。試合でのパフォーマンスを上げるのにプラスになっていると思います。

――きめの細かいケアがメジャーで受け入れられているのですね?

 マーク・マグワイアは家が近いってこともあり、いまだに家に招待してくれます。また、今年の今年のオールスターはメッツの球場だったので、手伝いをしたのですが、ジョーイ・ボット(レッズ)は(前日のホームラン競争と当日と)2日続けて治療を受けてくれ、すごく喜んでくれました。また、カルロス・ベルトラン(カージナルス)、ブライス・ハーパー(ナショナルズ)も喜んでくれました。
 また、一番の思い出はマリアノ・リベラですね。リベラが暇そうにしていたので、「マッサージやストレッチが必要か?」声を掛けたんです。そうしたら「ぜひ」と言って、受けてくれたんです。マッサージを受けた後は「すごく良かったよ」と喜んでくれて、そのままブルペン入りしてマウンドに向かいました。まさかリベラのオールスターのラストマウンドの手助けができると思いませんでした。私のハイライトのひとつになるでしょうね。

――西尾さんは陰で選手を支える存在ですが、ベストパフォーマンスを出してくれることが喜びですか?

 もちろん。少しでもパフォーマンスが上がって、良い成績につながってくれれば、ありがたいですよね。
 私はプロの中でも、プロ中のプロを相手にしたいと思って海を渡ったので、そういう選手とメジャーリーグで出会えて良かったです。そういう選手が私を必要としてくれるのは嬉しいですよね。

――今後のさらなる活躍をお祈りしています。今日はありがとうございました。

<了>

(取材・森隆史/スポーツナビ)

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