なでしこが縦に速いサッカーを貫く意義=世界の盟主目指し、迎えた変革の時
自ら仕掛けるサッカーにスタイルを転換
ドイツ(白)に敗れるなど、6月の3試合は未勝利だったが、なでしこ(青)の明確な狙いを見ることができた 【Getty Images】
3試合で1勝もできなかったことは残念だが、絶望するほどではない。チームを全否定するつもりもない。なでしこジャパンの“ある狙い”が明確で、かつ徹底されていたからだ。
なでしこジャパンが15年のW杯カナダ大会、16年のリオデジャネイロ五輪を目指して志向しているサッカーは、11〜12年のころとは様変わりしている。かつては強豪と対戦する際、“相手の攻撃に耐える”、“ボールをできる限り保持する(なるべく相手に持たせない)”こと、つまり安全第一なサッカーを最優先にしてきた。
だが、今は違う。丁寧にボールを保持するだけでなく、意図的に早いタイミングからの縦パス(高々と蹴り込むロングボールではなく、地を這(は)う強い縦パス)を使っていた。縦パスで攻めれば、相手DFの裏をつけるので、攻めるほうにビッグチャンスがやってくる。反面、縦パスは失敗する確率も高い。失敗すれば、相手は前を向いた状態でボールをカットでき、素早くカウンターを繰り出すことができる。なでしこジャパンは逆襲をくらうリスクを承知で、もっと言えば世界一を手にした“なでしこらしい”スタイルをいったん棚上げして、自ら仕掛けるサッカーを選んだ。
金星を挙げるためのサッカーを脱却
今回のコラムは、この“縦に速いサッカー”をポイントに据えて、3試合を振り返ってみたい。そして、3試合のテレビ中継を録画していたかたは、ぜひ保存しておいて、再来年のW杯本番を迎えたころに見返してほしい。今回の3試合が、本番への重要な伏線になっているはずだからだ。
まずは20日のニュージーランド戦。なでしこジャパンは11〜12年当時とほとんど変わらない顔ぶれを先発に起用したが、選手の役割や選択するプレーは変化していた。お気づきのかたも多いと思うが、MF中央に位置する澤穂希と阪口夢穂のコンビは、役割を入れ替えていた。2人はこれまで、簡単に言えば「澤が前、阪口が後ろ」の役割をこなしていたが、ニュージーランド戦では逆になった。
澤はこぼれ球の処理など後方支援に比重を置いた仕事をこなし(それでも澤らしくないミスが目立ったが)、一方で阪口は前に攻め上がってチャンスメークしていた。
象徴的なプレーは前半10分に訪れた。大儀見優季からのパスを受けた阪口は、ボールを足下に止めることなく、ワンタッチで相手DFラインの背後へスルーパスを放った。シュートまで結びつかなかったものの、このワンプレーは、チーム全体がなでしこジャパンの15〜16年バージョンのイメージを共有するための、いい材料になった。
澤不在時を想定したチーム再編
これまでにも、澤の不在時に何人かの選手がボランチとして出場したが、いずれも埋め合わせ的な起用が多かった。実際、ロンドン五輪という大舞台には澤がしっかり調子を戻して復帰した。しかし、不動のセンターバックである熊谷をわざわざ配置転換したということは、澤がいないことをより現実的に意識して、チームを再編し始めたと受け取れる。
話を試合内容に戻そう。11年のW杯で唯一敗れたイングランドを相手にしても、なでしこジャパンは積極的に攻めた。通るかどうか五分五分の状況でも、安全策ではなく強気に縦パスを出した。