なでしこが縦に速いサッカーを貫く意義=世界の盟主目指し、迎えた変革の時
際立った宇津木の30メートルの縦パス
イングランド戦の宇津木のパスに象徴されるように、なでしこは縦に速い攻撃を徹底している 【Getty Images】
試合後、そのプレーを引き合いに出すと、宇津木は言った。
「日本らしいサッカーと言えば、手間をかけて細かくパスをつなぐサッカーだけれど、手間をかけずに攻めることができれば、それに越したことはないと思うんです。わたしは、日本と世界に大きな差はないと思っています。相手に速く攻められたら嫌なのだから、同じようにこちらが速く攻めれば、相手だって嫌だと感じるはずです」
なでしこは、相手にボールを奪われ、ピンチを招く場面も少なくなかった。お互いに相手のパスミスを突いての1−1だったが、止めては仕掛け、仕掛けては止める展開は見応えがあった。そして、過去のイングランド戦を通じて最も攻め込んだゲームになった。
また、イングランドは高い位置からボールを奪いにこないで、やや引き気味に構えていた。それを察した岩清水梓は、「自分でボールを運ぶことができた」と振り返るとおり、自らドリブルしてラインを押し上げた。W杯の敗戦を糧に、攻撃の組み立て方の引き出しを増やしている。
状況に応じては澤のセンターバックも
「2−4というスコアの差だけでなく、技術もコンディションもフィジカルも、全部ドイツを上回ることができなかった」
佐々木監督は敗戦後の記者会見で、開口一番そう語った。確かにドイツ人選手は、強さ、速さばかりでなく、プレーの正確性が目に見えて進歩していた。
なでしこジャパンの積極的なパスは頻繁にカットされ、最も失点リスクの高いショートカウンター(高い位置からの逆襲)に晒(さら)された。過去2戦では露呈しなかった弱点をドイツ相手にはごまかすことができなかった。パスのスピードと距離、速くプレーする時の技術の精度、そして体をコンタクトした時の強さだ。
なお、3試合で3組目となったボランチコンビには、阪口と宮間あやが選ばれた。技術にも戦術眼にも長ける宮間だが、世界トップレベルを相手に中央のポジションでプレーすると、どうしても相手に狙われ、囲まれ、つぶされてしまう。12年のアルガルベカップ決勝で、宮間は同じドイツを相手にボランチで先発し、やはり持ち味を発揮できなかった。その時点で佐々木監督も見極めたと思っていたが、再び試したという背景からも、やはり澤に替わる扇の要を見出せずにいるチーム状況が読み取れる。
資質的には熊谷が一歩リードしていると思えるが、すると今度は熊谷が抜けたセンターバックが決まらない。今後は、熊谷をMFに上げてDFの新レギュラーの台頭を待つか、または熊谷を従来どおりDFに置いて新ボランチを育てるか。その見極めが必要だ。ひょっとしたら、熊谷ボランチ、澤センターバックという、驚きの解決策だってあるかもしれない。
ドイツに完敗もチャレンジこそ重要
「成功の反対は失敗ではない。チャレンジしないことだ」
佐々木監督は、事あるごとにそう説いている。今回の欧州遠征で、なでしこジャパンはチャレンジを貫き、自らの弱点を知った。そのことに意義がある。
強調しておきたいが、弱点と欠点は違う。欠点とは、体のサイズのように、努力で克服できないものを指す。カバーするには長所で埋めるしかない。だが、弱点は克服可能だ。つまり、ドイツ戦で明るみに出たパスのスピードと距離、速くプレーする時の技術の精度、そして体をコンタクトした時の強さ、などは、目的を持って計画的に取り組めば十分に克服できる。
<了>