歴史に終止符を打つファーガソンの引退劇=“忘れ形見”香川にできる恩返しとは
青天の霹靂だった勇退発表
世界に衝撃を与えたファーガソン監督の引退発表。今までも報じられることはあったが、今回はこれまでと様子が違った 【Man Utd via Getty Images】
「マンチェスター・ユナイテッドは、サー・アレックス・ファーガソン監督が今シーズンいっぱいで勇退することをお伝えします。イングランドフットボール史上、最も成功を収めた監督は、5月19日のウエスト・ブロムウィッチ戦を最後に監督を引退し、クラブの役員に加わります」
引退理由については、すでに本人の声明が日本でも大きく報じられているので詳細は割愛する。彼の弁に加え、71歳という高齢からくる、体調面の不安もあったのだろう。04年には心臓にペースメーカーを入れており、今夏にはでん部の手術が予定されていることも明らかにされていた。
それでも、このタイミングでの発表は青天の霹靂(へきれき)だった。つい2カ月前、インタビューで引退時期を聞かれたファーガソンは、「誰にも分からない。わたし自身もね。引退を宣告するのが、医者じゃなければいいね!」と冗談まじりに語っていた。第36節チェルシー戦のマッチデイ・プログラムの中では、「今すぐ退任する予定はない。今のチームには、何か特別な予感がするし、見届ける価値があると思う」と続投を約束していた。それだけに、誰もが信じられないニュースだった。実際、彼の腹心であるコーチのレネ・ミューレンスティーンですら、本人の口から決断を聞いたのは8日の朝、公式発表の数時間前に、彼のオフィスに呼び出されたときだったという。
クラブの沈黙により信憑性は増すばかり
引退のうわさや後任監督の名前が報じられること自体は、これまでも日常茶飯事だった。過去には、実際に何度か退任に近づいたこともあった。1989−90シーズンには成績不振から解任の危機に立たされたが、負ければ解任の一戦で、後に「クラブの未来を救った男」と言われるマーク・ロビンズのゴールで勝利を収めて、続投を勝ち取ったことがある。01年には本人が引退を発表したが、キャシー夫人の後押しで数カ月後に撤回したこともあった。最近では10年に勇退が大々的に報じられたが、「健康が許す限り続ける」と本人がそれを一蹴している。
しかし、今回は「ちょっといつもと様子が違う」という空気があった。最初の報道が出た時点でクラブからは肯定・否定の声明が何もなく、クラブ関係者も記者たちの電話に一切出なかったという。火のないところに煙は立たない。そしてクラブからの火消しがない。こうしてどんどんうわさは信憑性を増していき、緊張状態のまま迎えた翌朝、冒頭の声明発表にいたった。