全米を魅了!? ダルビッシュの“完全”投球とスマイル

山脇明子

人気スポーツ番組の冒頭を飾ったダルビッシュ

“あと1人”の場面で安打を許し、苦笑いを浮かべるダルビッシュ。写真は3日正午すぎ、阪急梅田駅の大型ビジョン 【写真は共同】

 アメリカのプロアスリートがよく口にすることがある。
「いつかすごい選手になって『スポーツセンター』で自分のいいプレーが取り上げられるのが夢だったんだ」

『スポーツセンター』とは、スポーツ専門テレビ局ESPNが開局した1979年から続いているスポーツニュース番組で、アメリカのスポーツファンならば誰もがスポーツ情報を得るために見ると言っても過言ではないほどの人気長寿番組。子供たちはこの番組を見てプロ選手たちの活躍ぶりを知り、「いつか自分もあんな風に」と夢を描くのだ。

 4月2日、その“スポーツセンター”の冒頭を飾ったのが、米大リーグ、テキサス・レンジャーズの投手、ダルビッシュ・有だった。
 この日はNBAの元スーパースター、シャキール・オニールのレイカーズでの背番号永久欠番セレモニーが行われるというビッグニュースもあった。
 だが、始まりのジングルは「誰もが立ち上がった。ダルビッシュはあと1アウトで……」と視聴者に興味を促す映像から始まった。

 メジャーリーグ史で24度目の完全試合まであと1アウトと迫りながら、達成を逃した。だが同ニュースは「見るにはとても面白いゲームだった」とダルビッシュの巧みな投球ぶりを紹介した。敵地のファンが最後には全員総立ちでダルビッシュの完全試合を祈る姿も映し出された。そしてあと1アウトというところで9番打者のマーウィン・ゴンザレスにセンター前ヒットを許したあとのダルビッシュの実際には苦笑いだった表情を映し、「彼のスマイル。こういうリアクションを見ると、スポーツの素晴らしさを感じる」と話した。

サイ・ヤング賞投手も脱帽「君は獣!」

レンジャーズのダルビッシュ投手の快投を報じる3日付の米紙ヒューストン・クロニクル 【共同】

 ダルビッシュは試合後、短文投稿サイトのツイッターに「あと一人て。。なんでやねん!!」と書き込み、悔しさを表した。しかしその一方で、同じメジャーという舞台で活躍するライバルたちは、賛辞の言葉をツイッター上に書き込んだ。
 昨季サイ・ヤング賞投手のデービッド・プライス(レイズ)は「有、君は(完全試合を達成できなかったとしても)明らかに獣だ。ハハハ! ……有、君には脱帽する。素晴らしいスタートだった」と冗談を交じえながら賞賛した。またレッドソックスのシェーン・ビクトリノは、完全試合達成目前で打たれた時に書き込んだのだろう。「ああいうのを見るのはつらい。ダルビッシュによる素晴らしいゲームだった」とダルビッシュを思いやった。

 レンジャーズの地元紙スター・テレグラム紙は、レンジャーズが昨年5170万ドルでダルビッシュとの独占交渉権を落札し6年総額6000万ドルで契約したことに触れ、「1円1円に価値がある」とし、今回は完全試合を逃したが、「またチャンスはある。円を賭けても大丈夫」と、いつかダルビッシュによって完全試合が成されることを約束した。

 ダルビッシュがいつかまた完全試合を成し遂げる機会を持つと断言するのは、同紙ばかりではない。ESPN電子版では、ダルビッシュの昨季からの成長について、「彼はより自信を持っているし、(メジャーでの投球に)慣れてきた。そしてより積極的だ。彼は何も、そして誰も恐れていない。こういう姿が昨季の終わり頃から見えてきた」とし、4月にサイ・ヤング賞を獲得することはないが、サイ・ヤング賞候補と印象づけることはできる。彼は今回は完全試合を逃した。しかし彼のキャリアが終わるまでにまた何度かチャンスはある。いや、今季中に何度かチャンスが訪れるかもしれない」とした。

完全試合ならずも、最高のスタート

完全試合こそ逃したものの、米2年目を最高の形でスタートさせた 【Getty Images】

 今季初登板を終えただけで、サイ・ヤング賞に言及されるのは、ダルビッシュの8回3分の2イニングの投球内容からだ。ゴンザレスに打たれるまでの26打者のうち、14打者から三振を奪っただけでなく、まともな当たりが2度しかなかったこと。自己初の無四球に終わったこと。多くある自らの持ち球をうまく使い分けていたこと、そして6回まで1点リードのみという緊迫した試合で崩れることなく力強い投球をしたことからで、NBCの電子版サイトは、「制球には波があるかも知れないが、彼の多種の武器と動くファーストボールはア・リーグのどのスターターにとっても打つのは難しい。彼は1年の経験で日本にいた時の1週間に一度の投球から5〜6日に一度の投球に適応した。彼はサイ・ヤング賞を奪う可能性がある」とした。

 多種の球種をうまく操るだけでなく、スピードも使い分けて打者を翻弄(ほんろう)するダルビッシュの姿を『スポーツ・イラストレイテッド』誌の電子版は「マジシャン」と表現し、「驚いたのは、ダルビッシュが完全試合まであと1アウトだったということではなく、彼が完全試合を達成できなかったこと」とした。
 CBSスポーツの電子版は、同試合でのダルビッシュの投球のうち、ベストピッチは「スライダー」とした。そして、この日の“ボーナス・ギフト”としては「ダルビッシュが9回に安打を打たれた時のリアクション」。
 やはり“スマイル”を挙げた。

<了>
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著者プロフィール

ロサンゼルス在住。同志社女子大学在学中、同志社大学野球部マネージャー、関西学生野球連盟委員を務める。卒業後フリーアナウンサーとしてABCラジオの「甲子園ハイライト」キャスター、テレビ大阪でサッカー天皇杯のレポーター、奈良ケーブルテレビでバスケットの中体連と高体連の実況などを勤め、1995年に渡米。現在は通信社の通信員としてMLB、NBAを中心に取材をしている。ロサンゼルスで日本語講師、マナー講師、アナウンサー養成講師も務めている。

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