ファーガソン監督が示す香川への信頼=常に計算できる存在となるために

寺沢薫

平均点の評価が多くを占める

ファーガソン監督(右)の香川に対する信頼は厚い。期待に応えるためにも常に計算できる存在となることが重要だ 【Getty Images】

 香川の76分間を、現地メディアは以下のように評価している。

 最も高い評価を与えたのは、地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』。他の大多数のチームメートと同じ平均点の「7点」という採点を付け、「美しいボールタッチ。ペナルティーボックス周辺を動き回ってチェルシーに問題を引き起こした」と評価した。一方、辛口だったのは『インデペンデント』で、「献身的な働きはしたが、前半は雑なパスが目立ち、後半は消えてしまった」と寸評し、先発組の中ではトム・クレバリーと並んで最低の「5点」を付けた。なお、この評価は同じ「5点」を付けた『デイリー・ミラー』もほぼ同様だ。

 その他の主要メディアは概ね平均点。『テレグラフ』は「ハットトリックでアピールした先週末と比べるとおとなしかった。そして、ラスト15分でダニー・ウェルベック投入の犠牲となった」として「6点」。ルーニーに「5点」と厳しい評価を付けた『ザ・サン』も、香川は平均点の「6点」だった。

 以上は出場全選手を対象にしたレーティングや寸評だが、実のところ、これ以上に香川に関する特別な記述はなかった。カップ戦とはいえビッグカードだけあって、各紙エース級の記者がマッチリポートで才筆をふるったものの、その中で香川の名前が登場することはほとんどなかったのだ。たしかに、相変わらずボールタッチは柔らかく、目立ったミスもなかったが、「消えていた」と評価されたようにプレーに顔を出す回数が少なかった部分もあり、香川自身のプレーが良くも悪くも目立たなかったところはある。だがそれ以上に、この試合では他の誰よりもルーニーへの注目度が異常なほど高かった。

イングランドで巻き起こる“ルーニー狂想曲”

 レアル・マドリー戦で先発を外されて以降、イングランドでは“ルーニー狂想曲”が続いている。CLの試合後、コーチのマイク・フェランはルーニーと香川の先発落ちを「戦術的な理由」と説明した。ナニの退場というアクシデントにより試合には負けたが、先発したウェルベックやライアン・ギグスがファーガソン監督のアイデアをほぼ完ぺきに遂行していたため、指揮官の判断を批判する向きは少ない。そこでイングランドのメディアは興味の矛先をルーニーに向けた。ここ数日、ルーニー不要論や退団説、はたまたファーガソンとの不仲疑惑まで、さまざまな報道が紙上を駆けめぐっている。

 その狂乱ぶりは、8日(金)に行われたチェルシー戦前の記者会見でも明らかだった。この会見では、『デイリーメール』と『インデペンデント』というメジャー全国紙の記者が締め出しを食らったが、ファーガソンは「ルーニーについてデタラメを報じた2紙について処分を下した。謝罪がない限り記者会見への出席を禁じる」とその真意を説明した。また、「ルーニーには新契約を用意する」と発言してうわさの沈静化を図ったことからも事の重大さがうかがえた。そのため、チェルシー戦でルーニーの一挙手一投足に注目が集まるのは必然だった。外国人の助っ人プレーヤーが、自国のナンバーワン・スターと同じ土俵で語られることを期待するのは難しい。

“安心と信頼”のブランド確立へ

 ただひとつ言えるのは、クラブのボスから香川が信頼されているのは間違いないということだ。ファーガソンはチェルシー戦の前、ルーニーに関する質問を矢のように受ける中で、香川について言及している。

「今のメンバーで誰を使うか選ぶのは難しい。ノーウィッチ戦でハットトリックした香川をレアル・マドリー戦で外したことについては、もっと批判されると思っていた」

 この言葉こそ、指揮官からの信頼の証だろう。また、「ルーニーと香川のベストポジションはトップ下か?」と質問した記者に対し、「そう思う。シンジはストライカーの背後がベスト。そしてウェインについてもそれは同じだ。だが、優れたフットボーラーは一緒にプレーできる。だから今後、彼らのポジションを状況に応じて入れ替えながらやっていかないといけない」とも話している。

 ボスの信頼を得ている以上、周囲の目がルーニーに集まる状況を香川は存分に利用すべきだろう。チェルシーとのFAカップ再試合を含め、優勝を目指すプレミアリーグでもまだまだ試合数は残っている。ボスの期待を裏切らなければ、現地メディアの評価は自ずとついてくる。マンチェスター・ユナイテッドで長く活躍するためには、大きく取り上げられることよりも、常に計算できる“安心と信頼”のブランドを確立することが大切だ。

<了>

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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