韓国「史上最強」チームに死角はないか?=ホン・ミョンボ監督率いる五輪代表への期待と不安
過去、何度も「史上最強」と呼ばれた五輪代表だが
ホン・ミョンボ監督はタレント集団を強い結束でまとめ上げている 【写真:Yonhap/アフロ】
もちろん、期待されていないわけではない。事実、これまでも4年に一度、韓国では「史上最強のサッカー五輪代表」が誕生してきた。シドニー五輪では大学生主体ながら、イ・ドングッ、コ・ジョンス、パク・チソンら10代でプロデビューした選手を数名擁していたことから「史上最強」と呼ばれていた。
またアテネ五輪時には、イ・チョンス、チェ・テウク、ユ・サンチョル(オーバーエイジ枠=OA)ら、2002年ワールドカップ(W杯)メンバーへの期待と、大半がKリーグでプレーするプロ選手だったこともあって、やはり「史上最強」と呼ばれた。そして前回北京五輪も、当時躍進著しかったパク・チュヨン、キ・ソンヨン、イ・チョンヨンらへの期待から、メダル獲得が有力視された。だが、過去の最高成績はアテネ五輪でのベスト8。前評判では期待を集めるも、結果的にはメダルに届かないのが、韓国の五輪サッカーだった。
もっとも、今回のロンドン五輪こそ、正真正銘の「史上最強」と呼べるのかもしれない。何しろキム・ボギョン(セレッソ大阪)、ペク・ソンドン(ジュビロ磐田)、ファン・ソクホ(サンフレッチェ広島)、ハン・グギョン(湘南ベルマーレ)、キム・ヨングォン(大宮アルディージャから今夏、広州恒大に移籍)ら、Jリーグや中国スーパーリーグで活躍する選手はもろちん、ク・ジャチョル(アウクスブルク)、チ・ドンウォン(サンダーランド)、キ・ソンヨン(セルティック)ら欧州組も合流。さらにOAとして、GKチョン・ソンリョン(水原三星)、FWパク・チュヨン(アーセナル)ら、2年前のW杯メンバーも加わっている。
チームの結束を促すホン・ミョンボ監督の哲学
06年W杯、08年五輪で代表コーチとして経験を積んで、09年からロンドン五輪世代を率いる“韓国サッカー界のカリスマ”は、監督デビューとなったU−20W杯(エジプト)で、前出のキム・ボギョン、ク・ジャチョルらを擁してベスト8進出を遂げると、10年アジア大会では3位入賞。五輪出場切符を懸けたアジア最終予選では、サウジアラビア、カタール、オマーンら中東勢に囲まれた“死の組”を3勝3分けで勝ち抜き、ロンドン五輪行きを決めている。
だが、その実績以上に注目すべきは、彼のリーダーシップである。選手を服従させたり、特定選手を厚遇することはせず、常に相手の意見に耳を傾ける。そして時には、こんな言葉を投げかけてチームの結束を促すのだ。
「わたしの心の中には常にナイフがある。君たちを守るためなら、ほかの誰かを傷つけても構わない。チームのために死んでもいいと思っている。君たちもチームのために死ねる覚悟を持ってほしい」
実際、パク・チュヨンが兵役延期問題で世論の猛烈な矢面に立たされたときには「こんな厳しい席に、選手を1人にすることはできない。チームと選手のために生きるのが監督だ」として、釈明会見への同席を買って出た。選手個々の人格や考えを尊重しつつ、チームへの献身と犠牲精神を求め、自らも率先する監督の哲学は、今やチームのフィロソフィーとして完全に定着していると言ってもいいだろう。ホン・ミョンボ監督から三顧の礼を受けて、U−20W杯からチームに加わった日本人フィジカルコーチ・池田誠剛氏も「U−20代表のときからホン・ミョンボ体制で戦ってきたチームにとって、ロンドン五輪はまさにその集大成の大会となる」と言っている。