韓国「史上最強」チームに死角はないか?=ホン・ミョンボ監督率いる五輪代表への期待と不安

チームにアクセントを加える欧州組

今回のチームに寄せられる国内メディアやサポーターからの期待は高い 【写真:ロイター/アフロ】

 そんなホン・ミョンボ監督が、一貫して採用してきたシステムが4−2−3−1である。就任時に「チーム作りはまず守備ありきだ。イタリアのような固い守備をベースにチームを作っていく」とした監督は「最前線とディフェンスラインとの間隔は20メートル以内」と選手に意識させつつ、前線からプレスを仕掛けてスペースを消していく“理詰めのサッカー”を徹底させてきた。一方、攻撃面では両サイドバックの果敢なオーバーラップと、2列目のスイッチプレーが特徴で、ここにきて「パワーアップした」という評価が高まっている。

 アクセントとなっているのは、前出の欧州組だ。ク・ジャチョル、チ・ドンウォンはアジア最終予選に出場せず、キ・ソンヨンに至ってはホン・ミョンボ体制になって初選出。それでも、チームへの適応が早く、攻守の両面で中心的な役割を担っている。アーセナルで出番に恵まれず、試合勘が心配されていたパク・チュヨンも、6月にヴァンフォーレ甲府で個人練習を重ねてきたこともあって(池田コーチのアシストによる)、本来の調子を取り戻した。

 もっとも、不安要素がないわけでもない。懸念されるのはセンターバックの人材不足だ。チームの要で主将も務めていたホン・ジョンホが負傷で離脱し、OA枠としてホン・ミョンボ監督が希望したイ・ジョンス(アル・サッド)も所属クラブの協力を得られなかった。しかも、国内最終合宿中にチャン・ヒョンス(FC東京)も負傷。北京五輪も経験したマルチDFキム・チャンスがOAとして加わっているが、キム・ヨングォンとファン・ソクホの急造センターバックには一抹(いちまつ)の不安を隠せない。

 韓国が属するグループBには、技術のメキシコ、組織力のスイス、スピードのガボンが同居する。優勝候補のスペインやブラジルを回避できたことで、国内メディアは「最高の組編成」と報じたが、慎重深いホン・ミョンボ監督は「最悪のグループだ」と分析している。
「優勝候補や開催国と同組でないことは幸いだが、われわれのグループは3カ国とも実力が拮抗(きっこう)している。つまり、勝てる可能性は50パーセントで、勝ち点4では(グループ突破は)安心できない」

メディアやファンの期待感は高まる一方だが

 ただ、それでも国内メディアやサポーターの期待は高い。国内壮行試合となったニュージーランド戦では、パク・チュヨンの先制ゴールもあって2−1の勝利を飾り、ロンドンでの最終強化試合となったセネガル戦ではキ・ソンヨン、パク・チュヨン、ク・ジャチョルの連続ゴールで3−0の大勝を飾った。セネガルは、強化試合とはいえ、五輪本大会で韓国と同組となるスイスや優勝候補のスペインを下している。それだけに、韓国五輪代表の実力を推し量る好材料となり、「メダル獲得青信号」「アップグレードしたホン・ミョンボ号にすきはなし」と、メディアやファンの期待感は高まる一方である。

 果たして、史上最強の韓国五輪代表は決勝トーナメント進出を果たし、期待される結果を手にすることができるだろうか。
 メダル獲得となれば、サッカーも「孝子種目」と呼ばれ、選手たちも大きな実利を手にすることができる。国民に約2年2カ月の兵役の義務がある韓国では、アジア大会で金メダル、五輪で金・銀・銅メダルを獲得すれば、兵役免除の恩恵にあずかれるのだ。兵役問題が解決していない選手たちにとっては最高のニンジンだが、それが時としてプレッシャーにもなる。10年アジア大会が、まさにそうだった。選手もホン・ミョンボ監督も、試合を重ねるごとに「硬直してしまった」ことをのちに告白している。

 ロンドン五輪でも、勝ち進むほどに“見えない重圧”が重くのしかかってくるかもしれない。だが、それを乗り越えなければメダルも見えてこない。「正真正銘の史上最強」の呼び声高く、大きな期待を集める韓国五輪代表。その真価が問われるのは、まさにこれからだ。

<了>

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている

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