男子体操は「中国に勝てる」=アテネ五輪金メダリスト・鹿島丈博氏に聞く

スポーツナビ

8年たった現在もなお、ファンの心に鮮明に焼き付いているアテネ五輪の金メダル。前年の世界選手権では中国と米国に敗れたが、五輪では現地での練習で金メダルへの手応えを感じたという 【スポーツナビ】

 開幕が間近に迫ったロンドン五輪で金メダル獲得が期待されている種目の1つ、男子体操。個人総合で世界選手権3連覇を飾っている内村航平(KONAMI)擁する日本チームが最大の目標に掲げているのが、アテネ大会以来8年ぶりとなる団体の金メダルだ。内村をはじめ、田中和仁(徳洲会体操クラブ)、田中佑典、山室光史(共にKONAMI)、加藤凌平(順大)の代表メンバーは、いずれもアテネの金メダルが強く印象に残っていると言い、「あんな演技をしたい」と口をそろえる。

 スポーツナビでは今回、そのアテネ五輪の金メダルメンバーであり、あん馬のスペシャリストとして世界チャンピオンに輝くなど数々の実績を残した鹿島丈博氏にインタビューを実施した。北京五輪で団体銀メダルを獲得した後に現役を引退、現在は大東文化大で講師を務めながら、日本体操協会の五輪強化本部委員として代表選手への指導を行う同氏に、金メダル獲得への展望やライバルチームの印象を聞いた。(取材日:7月18日)

日本チームは「精神的にも技術的にも高い選手が選ばれた」

――今回の日本代表メンバーを見て、率直にどう思われますか?

 強いメンバーであることに間違いないですね。代表選考会では2試合で4回演技をやった(全日本選手権2日間、NHK杯2日間)わけですが、すごい緊張感の中での戦いで、精神的にも技術的にも高いものを持っている選手が選ばれたなと感じています。

――五輪の経験者は内村選手1人だけですね

 僕の経験の中では、どの大会に挑戦するにしても「1つの大会」というとらえ方だと思うんですよね。世界大会を経験している選手も多いですし、五輪であっても、本番で最高のものを出すようにトレーニングをしているので、1つの大会としてとらえてやるんじゃないかなと思っています。

――でも、五輪というのは独特な緊張感があって、雰囲気も全然違うと言いますよね?

 違いますよね、やっぱり(笑)。自分も初めて(アテネ五輪に)出た時は、4年に1回しかないし、そこを目指してやってきたというのがあったので変に緊張しました。
 世界選手権ももちろん日本の代表としてやるんですが、もう少し大きな「五輪」いう枠の代表選手として臨むので責任もあります。世界選手権とは比べ物にならないくらい注目もされるので、そのあたりは少し肝の小さな僕にはプレッシャーでした(笑)。

――それをはねのけて、あの素晴らしい演技をされたんですね

 終わってみて全部吹っ飛んだんですけど、相当な緊張感もあったし、試合前はみんなソワソワしていました。夜に試合があったんですけど、朝起きてまだ全然時間が早いのに、ベランダでトレーニングをやったりとか(笑)。普段は朝練習して、夕方にも練習してというリズムでやってたんですけど、その感じで朝もやっていましたね。

――アテネの時の五輪経験者は塚原直也選手だけでしたが、アドバイスなどはありましたか?

 塚原さんも緊張されていましたよ(笑)。「何回やっても緊張する」って言われたので、「ああ、ベテランの人でもそうなんだったら、しょうがないかな」と思うことはできました。

――精神的にも強い選手が選ばれたとのことで、あとはどれだけ本番で開き直れるかということでしょうか?

 自分たちの演技ができれば、(団体で金メダルを取れる)可能性は高いと思うんですよね。どうなるかは分かりませんが、すごく良い練習をやってきたし、取れる可能性は高いんじゃないかなと感じています。

――2011年の世界選手権(東京)では中国に敗れて銀メダルでしたが、今回の五輪では逆転できるんじゃないかという雰囲気を感じました

(日本は)少し失敗がありましたしね。競技に「たら、れば」はないですけど、失敗していなかったら、きっとより良い結果になっていたと思います。経験した選手は悔しい思いをしているはずなんですよね。何をしなければいけないのかというのは、本人たちが一番感じているはずなので、より良い結果につなげるために調整してきているんじゃないかと思います。

内村は「これぞチャンピオン」という練習をする

圧倒的な実力で世界の体操をリードする内村航平。個人総合では敵なしだが、一番の目標は「団体の金メダル」と言い続けてきた 【坂本清】

――では、鹿島さんの目から見たそれぞれの選手の特徴、良いところを教えて下さい。まずは内村選手から

 内村選手は絶対的な存在感もありますし、一番強い気持ちを持って挑んでいるんじゃないでしょうか。北京でも悔しい思いをしたと言っているし、団体で金メダルを取ることを最大の目標としている中で、気持ちの面でもみんなを引っ張っています。北京よりは一回りも二回りも大きな存在になっていますね。

――北京五輪には一緒に出場されましたが、この4年間で変化・成長していると思う点はどのようなところでしょうか?

 すべての練習を見ているわけではないですが、すごく意識が高い練習をしていますね。なんというか、「これぞチャンピオン!」っていう練習なんですよ。だから強いんだな、と思わせるような。

――「これぞチャンピオン!」という練習とは?

 うーん、難しいんですが……。集中力が高いというか、より意思が強いというか。みんなもそういうことをやっているはずなんですが、より明確に、何をしたいのかというのが見える練習なのかなと思います。今のこの練習では何を表現するのかというのが表れていて、自分が思い描く最高の演技に向けての練習が見える。そして、五輪でもそういう演技をするんだろうなという感じを出していますね。

――内村選手は緊張をしたことがないそうですが……

 すごいですよね。でも、裏付けはあります。緊張しないって言ったら図太いのかな、という感じを受けますが、それだけの練習をしているし、だからこそそういうメンタルでいけるんだろうなと。推測ですが(笑)。

――北京五輪で2度落下したイメージが強く、あん馬が苦手だという印象をまだ持っている人も多いのではないかと思いますが、内村選手のあん馬はいかがでしょうか?

 もともと苦手ではなかったはずです。北京の時は手首が痛くて(手を)つけない状態だったんですよね。言い訳になっちゃうので(本人は)言わないと思いますが、苦手だなと思ったことはないです。北京が終わってからはすごく安定して、1つ1つの技が正確になって、失敗しなくなりましたね。

 ほかの種目だと倒立などで少し落ち着ける場所があるんですけど、あん馬はずっと連続運動なので、1つの技が崩れるとバタバタっといっちゃう可能性があります。その1つを丁寧にやっていくのが難しいんですけど、正確にできていて上手だなと思います。技の難度もすごく上げていますし。

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