男子体操は「中国に勝てる」=アテネ五輪金メダリスト・鹿島丈博氏に聞く

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山室は「理論派」

内村と同級生の山室は、パワフルな演技が魅力。つり輪では種目別のメダルの期待もかかる 【坂本清】

――その内村選手と日体大で同級生だった山室選手についてはいかがですか?

(内村と)2人で「もっとこうしたらいいんじゃない?」と話し合ったりする場面をよく見かけます。力強くてパワフルな演技など、内村選手にないものを持っていますし、お互いに刺激し合っていますね。

――山室選手の得意種目はつり輪と跳馬ですが、どのような良さがありますか?

 例えば跳馬だと、ただ走っていってバンっと飛べるかと言ったらそうではなくて、1つひとつ理屈があるわけですが、「こうやってこう動かしたらこうなる」というのをすごく考えてやっていますね。

――理論を頭に置きながら練習するタイプなのでしょうか?

 僕にもできない技術なんで「どうやってるの?」って聞くと、「ここでこうやって……」と説明してくれる。それを言葉にできるということは、自分の中で整理整頓された演技、技術であるということです。それはつり輪に関しても同じことだと思います。

――得意種目以外、あん馬などはいかがですか?

 あの太い腕なのに、すごく良い旋回をしますね。昔からすごく上手な選手です。もともと旋回のスピードもありますし、失敗しないですね。がっちりした選手だと筋肉が付き過ぎて、(腕が)後ろに回らないんですよ。あん馬は足の遠心力を使いながら支持をして回っているんですけれど、台の幅が狭いのでゴツイ人は腕と体がくっついてしまって、しんどいはずなんです。でも、山室選手はうまくやっていますね。

真面目さが演技に出ている田中和、正確な演技の田中佑

「田中3きょうだい」で五輪に挑む和仁(右)と佑典(左)。共通の持ち味は、正確で完成度の高い演技だ 【坂本清】

――では続いて、田中兄弟についてお伺いします。まず、お兄さんの和仁選手についてお願いします

 最年長(27歳)で大きな大会もいろいろ経験して、キャプテンとして大変でしょうけど(チームを)引っ張っています。性格がすごく真面目なので、演技自体もそういう生真面目さが見えて、1つ1つがきっちりしています。見ていて本当に減点するところがない、きれいな体操をする選手です。

――得意の平行棒はどのような点が優れているのでしょうか?

 初めの「棒下系」と呼ばれる技では、ちょっとバランスを崩すと次に影響が出るんですけど、1つ1つきっちり倒立にはめてやっていたり、「そんなところでそんなことができるの?」というところで難しい技を入れています。
 それは、1つの技がすごく完成度が高いからできるんですよね。難度を上げると、どうしても難しい技を後半に入れないといけないリスクを負います。得意種目であればあるほどそこで点数を取ることを期待されるので、得意種目だけどリスクが高くなっていく、というのが今の体操競技の難しいところではあるんですが、後半に難しい技をやっても完成度の高いきれいな演技をしているという印象があります。

――平行棒以外では?

 1つ1つの技のこなし方というか、見せ方がすごくきれいなんですよね。価値点(Dスコア)はやっぱり内村選手がすごく高いんですけど、Eスコア(出来栄え点)がやはり高いですね。
 内村選手もすごい点が出ているのでどっちが高いとは言えませんが、それでもすごくきれいな体操をするな、というのは鉄棒を見ていても思います。つり輪なんかも、すごく価値点が高いわけじゃないんですけど、1つ1つの技の決め方が上手だなと思います。

――では、弟の佑典選手はいかがでしょう?

 最近、自分で「メンタルが弱い」とか言っていますが(笑)、決してそんなことはないと思うんですよね。ここ一番で力を発揮できるはずなんです、彼は。たまたま去年の世界選手権でああいう失敗(団体決勝の鉄棒で落下し、金メダルの可能性が遠のいた)があって、そういうことを感じているのもしれません。でも、練習もすごくするし、すごく真面目で、和仁選手と同じく丁寧な体操をしていると思います。
 自分の武器となる種目が多く、思い切りも良いですし、着地も強い選手です。少し足を痛めていて、踏ん張れないというのがあるんですが、心配をするようなところもないし、すごく良いものを持っていると感じます。

――5月のNHK杯では足を痛めたまま出ていたようですが、回復具合はどうなのでしょう?

(4月の)全日本選手権の時に痛めたのですが、NHK杯はよくやったなと思います。少しずつ良くなっていると言っていましたし、着地をしっかり取るという練習もやっていたので、出る種目に関しては大丈夫だろうなと感じます。僕はあまり心配していません。

――鉄棒の技術の高さはどういう点ですか?

 鉄棒は手を離す技がありますが、手を離すということはそれだけリスクが高くなるんですけど、それを正確にやっていますよね。キメが上手です。シュタルダー(後方開脚浮き腰回転倒立)系の技のキメなど、全体的にうまいなあと思います。やっぱり正確な演技ということになるんですかね。

大学1年生の加藤は「試合に強い」のが強み

大学1年生、19歳で代表入りした加藤凌平。代表選考がかかった試合でもミスなく演じ、内村に「あの年齢で、すごい」と言わしめた 【坂本清】

――では最後に、佑典選手と同じく順天堂大の後輩にあたる加藤選手についてお願いします

 試合にすごく強いと思います。動きにも思い切りがありますし、競技者として「試合に強い」というのは何よりも強みになると思います。ゆかも、すごく価値点を高くして難しい技を入れているんですけど、(選考会でも)大きな乱れはなかったですよね。「あそこでバシバシ決めていける18歳って何者だよ!?」って思いますね(笑)。

――内村選手も、加藤選手ともう1人、大学生で代表を争った野々村笙吾選手(順大)の2人について「あの年であのレベルはありえない」と言っていました

 野々村選手もすごく面白い選手で、加藤選手とは全然違うタイプなんですけど、「なんで18歳でこんなに意識の高い練習ができるんだ?」と思うくらい、あの2人は特殊ですね。自分が18歳だったころはガキだったなぁと思います(笑)。世界選手権にもまだ出ていなくて、ガリガリでした。だから、今から五輪に出るっていうのはすごいと思います。

――将来有望ですね

 そうですね。でも、トップに居続けることってすごく大変なので……。精神的にいろんなものを背負って、五輪に出たら「五輪選手の」、メダルを取っちゃったら「メダリストの」という目でずっと見られるので。そこを乗り越えて成長していくのを見るのは楽しみです。

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