男子体操は「中国に勝てる」=アテネ五輪金メダリスト・鹿島丈博氏に聞く

スポーツナビ

「僕は中国に勝てるんじゃないかなと思う」

種目のスペシャリストがそろう中国チーム。つり輪の王者、陳一氷は直前合宿でひざをけがしたと伝えられているが…… 【榊原嘉徳】

――では次に、団体のライバルとなると言われている中国と米国についてお伺いします。中国は北京の経験者が2人で、5人とも昨年の世界選手権のメンバーですが、どのようなチームでしょうか?

 なんか……僕は中国に勝てるんじゃないかなと思うんですよね。

――おお、頼もしい発言ですね!

 エントリーが6人から5人になりましたよね。1種目に3人出場しなきゃいけないわけですが、そうすると1人の負担が大きくなるんですよね。やらなきゃいけない種目が増えると、その種目が不得意な人もやらなきゃいけないので、総合的に日本の方が強いんじゃないかなと……。

 ただ、種目別に関しては技の価値点を高くしていて、あまり好きな体操ではないんですけど、すごいことをいっぱいやっているなと。それだけ難しいことを失敗しないでできるというのが、中国のすごく強い点ですね。ある一定の価値点よりも上げようとすると、失敗する確率がいきなりガンと上がるんですけど、それを成功させてくるというのはすごく強いと思います。

――米国は全体的に若いメンバーですが、どう見ていますか?

 米国がすごく強いという話はよく聞きますよね。勢いがあって乗せると怖いなというか、失敗しないでくるとすごく強いのかなと。(良い演技が続くと)だんだん乗っていく雰囲気があるのかなと思います。

 鉄棒とかもすごくうまいですよね。今のルールも7年目で、どの国もだんだんと高い位置で近寄ってきているので、いかに失敗しないかが大事になりますが、その勢いが今の米国にはすごくあるんじゃないかなと思います。

五輪の種目別は面白い!

減点方式から加点方式に変わったことで、採点基準も大きく変わった。新旧の採点を世界レベルで体感している鹿島氏は「点数に惑わされないでほしい」とアドバイスを送る 【スポーツナビ】

――個人総合についても少し伺わせて下さい。内村選手に続く選手、例えばドイツのフィリップ・ボイ選手やファビアン・ハンビュッフェン選手はどんな選手ですか?

 ハンビュッフェン選手は一度けがをしてから、あんまり上には来ていないですかね。ボイ選手は鉄棒が得意で、1つ1つ失敗しないでやってくるという正確な体操をしてきます。男前だし、なかなかいいやつです(笑)。価値点も高くて、失敗しなければやはり上位に来る選手ですね。

――では、種目別はいかがでしょうか? 見どころや注目選手がいたら教えて下さい

 種目別は面白いですよね。五輪の種目別は本当に面白いです。とんでもない強い選手が出てくるので。ちょっとお祭りみたいな独特な雰囲気がありますよね。たぶん、どれを見ても面白いなと思います。

――難度で勝負するタイプが多いせいか、日本勢のいわゆる「美しい体操」と全然違うのに、点が出ると高い!という演技もある気がするのですが

 世界選手権や五輪の種目別では、E審判(Eスコア=出来栄え点を見る審判)に出場国の人が入って来ないんですよ。それだと(選手を)見慣れていなくて、だから(点数を)引けない、というのもあると思います。

――見慣れていないと減点しづらいものなんでしょうか?

 やっぱり、五輪に出てくる選手ってみんなすごいんですよ(笑)。だから、「すげー!」ってなっちゃう。何回も見られていると、「ここでミスがあるな」とか、より注意して見られることもあるかもしれません。でも逆に、注目されないと点が出にくいというのもあるとは思います。

10点満点時代との違いは!?

――採点の話になったのでもう少しお伺いしますが、10点満点時代と比べると、見た目の結果の差異は今の方が強いですか?

 そうですね。10点満点の場合、得点的に頭打ちはしているわけですよね。より正確な技をやった人には高い点数が出たり、完成度の高い人には「さっきの演技より良いな」とかで点の差が出ていたんですけど、今のルールだとDスコアはDスコアでつけるし、EスコアはEスコアでつけちゃうので。Dスコアが高いとEスコアがちょっと低くても(きれいな演技をした人と)同じような点数が出ますね。

――特に種目別のように価値点の高い演技をすると、Eスコアが甘めに出たりもするのでしょうか?

 多少変わったりはしますかね。僕の見た目が日本びいきなのでそういうふうに思うのかもしれませんが、技の完成度とか正確性を見ると、鉄棒は内村選手が優勝だろうと思っちゃうんですけど(笑)。すごくきれいな演技をして「上手だなあ」と思うのに、点数が伸びなくてなんでだろうなと思うことはあります。特に今のルールになってからは、Dスコアが高くてEスコアが低いのに優勝しちゃうという現象も起きていますよね。それはそれですごいんですけど、なんか、体操としては……。こっちの方がうまいのになとか、思ったりもしますね。

――採点競技の難しいところですね。試合の後に審判と話して、レビューを受ける機会というのはあるのでしょうか?

 実際の試合ではないですね。Dスコアについては質問できますが、Eスコアに関しては質問できないというルールがあるんです。それはそれとして受け止めて、そういうものだと思って選手はやっているわけですね。
 今回の五輪では「試技会」というのを何回かやっているんですけど、日本の審判の方に来ていただいてチェックをして、審判の目線から「ここがこうだったからこういう点数だったんだよ」といったことはしてもらっています。

 本当に採点は難しいと思いますが、点数うんぬんにめげずに選手には頑張ってほしいと思います。五輪では自分たちが思っている点数が出ないかもしれない。でも、それは全体的にほかの国にも言えることです。審判は公正なので、点数に惑わされてしまうと、「ダメだったな……」と崩れていっちゃうこともあるかもしれません。でも、ほかの国も低かったら、そういう傾向ということですよね。なので、惑わされずにやってほしいなと思います。

――最後にあらためて代表メンバーへ、五輪に向けてメッセージをお願いします

 五輪はやはり最高の舞台です。その舞台を楽しんで、自分たちの思い描いている演技ができるよう、日本から応援しています。

<了>

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