五輪も独壇場か? アフリカ勢の過酷な代表争いと日本に残された可能性=マラソン

K Ken 中村

史上最も厳しいケニアの五輪選考

ロンドンマラソンで優勝したキプサング(中央)はケニア五輪代表に決まったが、同2位のレル(左)は落選した 【Getty Images】

 こんなにも厳しいマラソン五輪代表選考が今まであっただろうか?
 2時間6分を切れば超一流マラソン・ランナーであり、ほとんどの国では五輪代表になれるはずである。しかし、ケニアでは事情が異なる。昨年、男子で2時間6分を切ったランナーは世界で13人いたが、その中で何と11人がケニア選手なのだ。ケニア陸連には、“この11人から3人を選ぶ”と言う至難の任務が課せられた。

 代表選考は五輪1年前から始まった。男子はまず、昨年の秋に、2011年世界選手権(韓国)金メダリストのアベル・キルイと、同年のベルリンマラソンで世界記録を樹立したパトリック・マカウを内定とした。2人に加え、女子では世界選手権で優勝したエドナ・キプラガトに内定を与えたケニア陸連は、ニューヨーク・マラソン直後に五輪マラソン・チームを発表すると約束していた。

 しかし今年の1月、ケニア陸連は突然その方針を転換してしまった。上記の3人に加え、男子はジョフリー・ムタイ、エマニュエル・ムタイ、モーゼス・モソップ、ウィルソン・キプサング、女子はメアリー・ケイタニー、フローレンス・キプラガト、プリスカ・ジェプトゥー、シャロン・チェロップとリディア・チェロメイの計12人を代表候補選手として選び、4月末に春のマラソンの結果から最終的に五輪マラソン・チームを選考すると発表したのだ。

ケニア男子、選考に異議の声

 そして、4月25日に発表されたチームは、男子がロンドンマラソン優勝のキプサング、6位のキルイ、そしてロッテルダムマラソン3位のモソップの3人、女子はロンドンマラソンで2時間18分37秒の自己ベストを記録して優勝したケイタニー、同2位のエドナ・キプラガト、同3位のジェプトゥーの3人が選ばれた。

 女子から見てみると、ケイタニーは2時間20分を複数回切った3選手(ポーラ・ラドクリフ=英国、キャサリン・ヌデレバ=ケニア)の一人である。しかし、ロンドン・マラソンで4位のフローレンス・キプラガトが落選、5位のルーシー・ワゴイ・カブーは選考対象にもならなかった。一方、チェロップはボストン・マラソンで優勝したが、タイムは2時間31分と平凡で落選。この女子の代表選考に「異議あり」との声はあまり聞こえてこない。

 一方、男子ではキプサングは初マラソンで3位に敗れた以後はマラソン4連勝中、しかもすべてのマラソンを2時間7分14秒以内で走破している。キルイは世界選手権2連勝中で、初マラソン最高記録保持者のモソップは3回のマラソンをすべて2時間6分以内で走っている。全員、五輪では優勝の可能性がある選手ばかりである。

 しかし、マカウ、昨年ボストンとニューヨークの両大会を大会記録で制して最強の呼び声が高かったジョフリー・ムタイ、そして昨年ロンドンマラソンを制したエマニュエル・ムタイの3人が落選した。一方、今年のボストンマラソンで優勝したウェスリー・コリールとロンドンマラソン2位のマーティン・レルの二人は選考候補に入っていなかったため、選考対象にもならなかった。

 さらに、男子では選考に異議が唱えられた。ロンドンで棄権したマカウが「自分はすでに選ばれていると思っていた」と訴えたのだ。しかし、欧米のマラソン専門家からはマカウの落選よりも、27度まで上がった気温の中で行われたボストンマラソンを棄権したジョフリー・ムタイの落選の方が話題に上った。「(ジョフリー・)ムタイを選ばなかったのはケニア陸連の大きなミスだ」とまで言われている。しかし、ケニアは以前五輪代表を土壇場で変更した過去がある。例えば、00年には当時コニカにいたエリック・ワイナイナに代表権が転がり込んできた。そう考えると、現在のチームは最終決定ではないかも知れない。

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著者プロフィール

三重県生まれ。カリフォルニア大学大学院物理学部博士課程修了。ATFS(世界陸上競技統計者協会)会員。IAAF(国際陸上競技連盟)出版物、Osaka2007、「陸上競技マガジン」「月刊陸上競技」などの媒体において日英両語で精力的な執筆活動の傍ら「Track and Field News」「Athletics International」「Running Stats」など欧米雑誌の通信員も務める。06年世界クロカン福岡大会報道部を経て、07年大阪世界陸上プレス・チーフ代理を務める。15回の世界陸上、8回の欧州選手権などメジャー大会に神出鬼没。

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