ジャンプ週間で日本が見せた上昇の兆し=好成績の裏にあった取り組みとは?

小林幸帆

記念大会となった伝統のジャンプ週間

ジャンプ週間第2戦で表彰台に上がった伊東大貴。悲願のW杯初優勝にあと一歩のところまで来ている 【Getty Images】

 年末年始にドイツとオーストリアで開催される伝統のジャンプ週間。W杯個人第8〜11戦も兼ねた今季は60回目の記念大会を迎えており、全4戦優勝のグランドスラム達成に賞金100万スイスフラン(約8100万円)が出ることも注目されていた。
 大本命のグレゴア・シュリーレンツァウアー(オーストリア)が開幕2連勝を飾ったことから、ジャンプ億万長者誕生が現実味を帯びてきたが、第3戦でチームメイトのアンドレアス・コフラーが優勝し、史上2人目のグランドスラムはならず。しかし、全4戦のジャンプ総合得点で競うジャンプ週間総合優勝はシュリーレンツァウアーが射止め、2位には同じくオーストリアのトーマス・モルゲンシュテルン、3位にコフラーが入った。

 ここ数シーズン、オーストリアの強さが際立っているが、今季はシモン・アマン(スイス)の不調、アダム・マリッシュ(ポーランド)の引退で、オーストリア独走に拍車がかかった。ジャンプ週間でもオーストリア勢の“身内バトル”が繰り広げられたが、その中でオーストリア勢の表彰台独占に割って入る好成績を収め、一躍注目チームとなったのが日本だった。

日本勢が見せた“予想外”の活躍

3年間のフィンランド武者留学経験がある竹内はフィンランド人記者から質問攻めに 【小林幸帆】

 元旦恒例の第2戦、ガルミッシュ・パルテンキルヒェン大会(ドイツ)で伊東大貴(雪印メグミルク)が3位に入ると、続く第3戦インスブルック大会(オーストリア)では竹内択(北野建設)が自身初の表彰台となる3位に。また、予選免除となるW杯総合上位10選手以外から最も好成績を残した選手に贈られる賞金2000ユーロ(約20万円)の「マン・オブ・ザ・ディ」賞も、初戦が伊東、第2戦と第3戦は竹内が受賞と、日本が独占した。
 過去3シーズンの日本勢の表彰台は合計わずか6回。昨季に至ってはゼロだった。それがシーズン大一番のジャンプ週間で連日の表彰台となったのだったから、予想外ととられるのも当然ではあった。

 伊東を中心に初戦から強いインパクトを与えた日本勢に、欧州のメディアは飛びついた。もともとアジア勢として孤軍奮闘する日本は、39歳ながら一線で飛び続ける葛西紀明(土屋ホーム)のように抜群の知名度と人気を誇る選手の存在もあって、ジャンプ界ではそれなりの地位を築いている。しかし、予選や試合当日に飛び終わってチームキャビンへと引き上げる日本選手が外国人記者につかまり、「なんでこんなに強くなったのだ?」「秘密は?」と質問攻めにあうというのは近年では珍しい光景だった。

日本躍進のカギは、遠征でのストレス対処

 ドイツのヘッドコーチは「(日本は)体が軽く、跳躍力も強い。非常に危険なチーム。ただ、そのポテンシャルを試合で出せていなかった」と警戒。そして、日本は例年、遠征が長くなるにつれて成績が下降することに触れ、「彼らが長くこっちにいてくれることを願うね。そうすればまた下がってくるから(笑)」と冗談めかしていたという。ドイツにとって地元開催のジャンプ週間はオーストリアとの対決の場でもある。「打倒オーストリア」に意気込んでいたなかで日本に出鼻をくじかれ、思わず飛び出た発言のようにも思えるが、実はそこにキーポイントがあった。

 日本を率いて2シーズン目を迎える横川朝冶ヘッドコーチが、就任にあたり最初に手をつけたのは「遠征中のストレスをなくすこと」だった。「技術では上回っているのだから変えることはない。持っているものを出せばいい」と技術面には自信を持っていた横川コーチにとって、直面したのは「いかに試合で力を出し切るか」ということであり、解決策として「遠征中のピリピリムードをなくし、日本にいる時と同じような雰囲気をつくる」ことを目指した。

 ライバル国にも見破られるほど深刻だった日本チームの遠征ストレス――今回のジャンプ週間で横川コーチをはじめとしたスタッフの努力が実を結びつつあることが証明されたのだが、とりわけ気持ちの変化がダイレクトに結果として出たのが竹内だった。

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著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

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