ジャンプ週間で日本が見せた上昇の兆し=好成績の裏にあった取り組みとは?

小林幸帆

「いつも通り」が結果につながった竹内、伊東

 これまでのシーズンを振り返り、結果を求めるあまり試合で自分の力を出せず、逆に自分を追い込んでいたことに気づいたという竹内は、欲を出さず、気負わず、余裕を持って飛ぶことを心がけた。
「調子は良い」と自信を持って挑んだ今シーズン、目指す「余計なことを考えず自分のジャンプをする」ことが試合でも出せるようになったのがジャンプ週間だった。
 
 これまでなら、表彰台に近づいたことで欲を出して自滅していたかもしれない。だが第3戦、満員となる2万2500人の観衆で膨れ上がったインスブルックで、前回の順位をさらにひとつ上げての表彰台。「どの順位にいても同じ考え方にするようにした。表彰台よりも自分のジャンプができたことの方が嬉しい」と竹内は喜んだ。

 一方、その実力は誰もが認め、「表彰台を狙える力は十分にある」と言われ続けながら、安定感を欠いていた伊東。今季は冬に照準を合わせ、夏を実戦ではなく調整にあてた。12月の個人第4戦ハラホフ大会(チェコ)でも2位につけており、ジャンプ週間では、強風にたたかれた第3戦を除けばいずれもトップ5入り。第2戦終了時点ではジャンプ週間の総合ランクで大本命のオーストリア2選手、シュリーレンツァウアーとコフラーに次ぐ3位につけ、オーストリア勢の表彰台独占阻止を願う人々の期待を一身に背負うことになった。第3戦で悪条件に泣かされて27位となり、総合の表彰台は夢と消えたが、伝統のビッグイベントで安定した結果を残した。
 
 ジャンプ週間を終えた伊東は、「結果はさておき、内容は安定しつつある。今までのシーズンに比べて遠征中の生活、練習が自分のペースでできている」と、遠征中の過ごし方の変化が課題であった安定感をもたらしていることを明かした。
 すでに表彰台は6回経験しているが、まだ表彰台の1番高いところには立てていない伊東について、横川コーチは「あとはマテリアル(ジャンプスーツ)さえ合えば、今季中に初優勝もいけると思う」と話す。

「2番手グループ」維持へ、期待の若手も

複合から転向した20歳の小林潤志郎(右)は1月の国内戦で葛西紀明を抑えて優勝を飾った 【写真は共同】

 ジャンプ週間では4戦すべてでオーストリアの選手が優勝。総合順位でも表彰台を独占し、オーストリアの強さだけが目立つ形となった。3人の規格外選手の後ろに厚い選手層が控えるオーストリアは別格と言わざるをえない。だが、それに続く2番手はノルウェー、ドイツ、日本が団子レースを繰り広げている。ドイツ、ノルウェーともにオーストリア人コーチを招へいして打倒オーストリアに力を入れており、日本はこの2番手グループで足場を固めることが求められる。

 横川コーチは目標を「トップ10に2人送り込むこと。そして、できれば3人目も入れたい」と話すが、伊東、竹内に続く3人目として今後に期待したいのが、今季複合から純ジャンプに転向した20歳の小林潤志郎(東海大学)だ。彼は2010年のノルディック・ジュニア世界選手権の複合個人で優勝という輝かしいキャリアを持つ選手でもある。今季のW杯組に大抜擢となった小林を、横川コーチは「向かい風にだまされないテクニックを持っている」と、その技術を高く評価する。W杯組1年目ながら、試合上位30以内に与えられるW杯ポイントを着実に稼いでおり、期待に応えているといえるだろう。

 技術はそのままに遠征中の気持ちを新たにという方針のもと、久々に明るい兆しが見えてきた日本。だが、W杯総合王者が毎年のように変わることからも分かるように、コンスタントに結果を出すのが難しいのがジャンプであり、技術や精神面の小さなブレが10メートル近くの距離になって跳ね返ってくる競技でもある。
 ジャンプ週間で日本が見せた上昇の兆し、与えたインパクトは、失速することなくシーズンを終えてはじめて評価される。

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著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

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