八百長からの威信回復を目指して臨む日本戦=変化の時を迎える韓国サッカー界

慎武宏

パスサッカーへの転換と若手の積極起用

チョ・グァンレ監督はク・ジャチョル(左端)、チ・ドンウォン(中央)ら若手を積極的に起用している 【Getty Images】

 韓国サッカー界は今、変化の時を迎えている。代表チームはもちろん、Kリーグも変革を迫られている。
 母国に強く変化を求めているのは、韓国代表監督である。昨年7月からチームを率いるチョ・グァンレ監督は、事あるごとにこんな言葉を口にしている。
「ワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会で16強進出に成功したが、14年のブラジル大会でさらなる好成績を挙げるためにも、韓国サッカーは変わらなければならない。韓国サッカーの“世界化”が必要だ」

 指揮官が求めるのは、パスサッカーへの転換である。1対1の個人技やサイド攻撃一辺倒の伝統のスタイルから、「スペインのようなパスサッカー」を理想に掲げる。そのために強調してきたのが、“スピードとの戦い”でもある。記者会見やインタビューなどで、監督は常々語ってきた。
「世界のサッカーは今、“スピードとの戦い”だ。攻撃的なマインドを持ってスピーディーな試合を展開しなければならない。考える速度、パスの速度、動きの速度など、すべてにおいて相手より速いスピーディーなサッカーこそが、わたしが目指すスタイルでもある」

 そのスタイル・チェンジは着実に浸透しつつある。就任時は代表の指導経験がないことへの不安などを理由に、外国人監督待望論を唱えるファンたちの間で疑心の目にさらされたチョ・グァンレ監督だが、Aマッチを重ねるたびに評価が高まり、優勝が期待された今年1月のアジアカップで日本に敗れて3位に終わっても、その手腕を責める声はなかった。
 むしろ、速くて細かいパス交換と頻繁なポジションチェンジを多用するサッカーは「漫画のサッカーが現実になった」とされ、若手の積極起用も高く評価されている。アジアカップ得点王のク・ジャチョル(22歳)、4得点のチ・ドンウォン(20歳)、イラン戦で劇的ゴールを決めたユン・ピッカラム(21歳)、そしてソン・フンミン(19歳)やホン・ジョンホ(21歳)ら、新たなヒーローも誕生した。そのため、日本に敗れて3位に終わっても、「W杯・ブラジル大会まで任せられる。3位に終わったが、希望多き大会だった」と評価されたほどだ。

韓国サッカー界を揺るがした一大スキャンダル

 変化をもたらしたのはサッカー・スタイルだけではない。5月下旬にはチョ・グァンレ監督自らがKFA(大韓サッカー協会)技術委員会に苦言。ク・ジャチョル、チ・ドンウォンら前述の若手選手は、ホン・ミョンボ監督率いる韓国五輪代表の主力でもあるが、A代表と五輪代表の選手重複問題に技術委員会が介入したことに怒りをあらわにしたのだ。「技術委員会の独自的な選手選出は、監督の領域に侵入しただけでなく、監督への不信任であり、韓国代表全体を苦境に陥れる行為だ」と声明を発表し、KFA技術委員会にかみついた。

 代表監督が選手選出をめぐってKリーグのクラブと衝突することは過去にあったが、身内であるKFAに苦言を呈した韓国人の代表監督は、おそらくチョ・グァンレが初めてだろう。代表監督になる前からKFA首脳部を公然と批判して“野人”(在野の人という意味)と呼ばれてきたが、代表監督になっても理不尽を許さない頑固一徹な発言で、KFAに「変化」を求めるその姿は、一部のメディアやサポーターから支持と共感を集めている。

 ただ、その結論が出ないまま、5月26日には韓国サッカー界を揺るがす一大スキャンダルが発覚した。Kリーグに八百長が横行していることが明るみになり、元韓国代表のキム・ドンヒョンら、現役Kリーガーたちが次々と逮捕される事態となった。しかも、04年アテネ五輪代表候補で、06年には全北現代のAFC(アジアサッカー連盟)チャンピオンズリーグ(ACL)制覇にも貢献した元Kリーガーのチョン・ジョングァンが八百長関与を苦に自殺。4月に謎の死を遂げた仁川ユナイテッドのGKユン・ギウォンも、実は八百長に関連した自殺ではないかとされるなど、韓国サッカー界は未曾有の一大スキャンダルに見舞われた。

 その捜査は1カ月以上に及び、元代表GKのヨム・ドンギュン(全北現代)や柏レイソルでもプレー経験がある元代表FWチェ・ソングッも八百長に関与。さらに15名が八百長に関与していたことが発覚した尚州尚武のイ・スチョル監督が、八百長関与選手の両親を恐喝して金銭を得ていたことも明るみになるなど、事態はドロ沼状態に。現役選手や元サッカー選手、八百長を促したブローカーなど計63名が関与し、チェ・ソングッら現役選手10名が韓国サッカー界から永久追放処分を受けたこの事件は、韓国サッカー界に暗い影を落とすだけではなく、国民のサッカーに対する信頼そのものを失墜させることになった。

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている。

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