八百長からの威信回復を目指して臨む日本戦=変化の時を迎える韓国サッカー界

慎武宏

Kリーグの改革、そして威信回復へ

八百長の横行という一大スキャンダルが発覚したKリーグ。チョン・モンギュ総裁(右)は信頼回復を誓う 【写真:ロイター/アフロ】

「身内の肉や骨を削る痛みがあろうとも、全力をかけて八百長を根絶し、何としても国民のサッカーに対する信頼を取り戻す」
 今年から新たにKリーグのトップに就任したチョン・モンギュ総裁は深刻な表情でそう決意を語り、八百長再発防止のためのリーグ改革案(13年の昇格制導入、カップ戦大会方式の全面改善、新人選抜制度の調整、選手の教育徹底と福祉制度の改善、うそ発見機の導入)と、今後の八百長発生時の該当チームに対しては降格、勝ち点の減点、ACL出場権はく奪などの厳罰処分を課すことを決めた。

 だが、国民たちのKリーグを見つめる目は依然として冷たい。Kリーグの一部の関係者の間では、八百長に加担した選手の処分軽減を求める声も出ているが、韓国ポータルサイトのNAVERが実施したアンケートでは、「犯罪者は容赦なく切るべき」という意見が79.14%に達し、Kリーグの改革案や取り組みを「生ぬるい」とする声もある。

 そんな中で日本戦を迎えることになった韓国。国民の関心が高い日本戦だけに、ライバル対決を名誉挽回(ばんかい)と起死回生への機会にしようと考えても不思議ではないだろう。ほかならぬチョ・グァンレ監督も言っている。
「日本戦は、何かと騒がしく暗い雰囲気にある韓国サッカー界を活性化させるきっかけにしたい」

 実際、そのメンバー構成からも、日本戦を威信回復の機会にしようとする意図がうかがえる。指揮官の当初の予定では、日本戦は国内組やJリーグ組のテストの場にするはずだったが、DFホン・ジョンホなどが八百長嫌疑に上がった(無実であることが証明)こともあって、方向転換。海外組を多数そろえた布陣となった。
「本来は国内組中心で臨もうと思っていたが、難しいことが多く、海外組を総動員させることを決めた。海外組の選手たちも最善を尽くすと約束してくれたし、韓日戦に関しては国民の関心を考慮せずにはいられない。最大限の準備をする覚悟だ」

“世界化”という共通の目標を持つ両国の戦い

 ただ、そのチーム構成は万全とは言えない。W杯・南アフリカメンバーで、パク・チソンの代表引退後は韓国代表のエース的存在だったイ・チョンヨンが、所属するボルトンでのプレシーズンマッチで右足の脛(けい)骨と腓(ひ)骨を骨折。最大9カ月の重傷を負い、日本戦どころか9月から始まるW杯・アジア3次予選の出場も絶望的となってしまった。
 そのイ・チョンヨンの代役として考えていたソン・フンミン(ハンブルガーSV)も、高熱でブンデスリーガ開幕戦を欠場したことを受けて招集を見送り。さらに今年6月に韓国人6人目のプレミアリーガーとしてサンダーランドに移籍したチ・ドンウォンも、所属クラブで定位置確保に専念させるため、日本戦への招集は見送られた。パク・チソンの代表引退によって、ただでさえ頼れる人材に事欠く攻撃陣に、さらなる欠員が出た状態で日本戦を迎えることになる。

 だが、チョ・グァンレ監督は苦しい表情を見せない。8月8日の出国インタビューでも、「(3人を欠くことで)大きな心配はしてはいない」と、その覚悟をあらわにした。
 指揮官はすでに日本戦の先発メンバーを韓国メディアに明かしている。右サイドから深く中に食い込んでくる本田対策として、守備力が高いキム・ヨングォンを左サイドバックに置き、イ・チョンヨンが抜けた右サイドにはク・ジャチョルの起用を示唆。「代表に来れば誰もが主力だ。残ったメンバーでベストを尽くし、選手が抜けようとも、さらに攻撃的で強いサッカーをするというマインドで臨む」と語っている。

「現時点で日本サッカーは世界にとても近い水準にある。われわれも良くなっているが、今回の日韓戦は、“世界化”という共通の目標を持つ両国の戦いだ。勝つために知恵を集め、ファンや国民たちに面白い試合をお見せしたい」

 韓国サッカー界に変化を求める指揮官が、変革を迫られている韓国サッカー界の信頼回復と活性化のために挑む日本戦。就任後の初戦となった10年8月11日のナイジェリア戦から、ちょうど1年の区切りとなる試合で、果たしてチョ・グァンレ監督はその使命を果たせるか。勝利を遂げられれば、韓国サッカー界のアウトサイダーが求め進める「変化」がさらに加速度を増し、メーンストリームへと昇華するだろう。

<了>

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている。

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