ドジャース主砲、輝きを取り戻せるか

山脇明子

「問題児」となった昨シーズン

 米大リーグ、ドジャースの主砲マット・ケンプが、今季は飛躍のシーズンを送るのではないかとひそかに期待している。
 2006年に21歳でメジャーデビューを果たし、52試合の出場で打率2割5分3厘と将来有望株であることをアピールすると、翌シーズンには開幕ロスター入りを決め、最初の5試合で打率4割2分9厘と大爆発。故障などにも見舞われ98試合の出場になるも、打率3割4分2厘をマークした。3年目には155試合に出場して打率2割9分、18本塁打、76打点の数字を残しドジャースの中心選手になり、09年には打率2割9分7厘、26本塁打、101打点とさらにレベルアップ。ゴールデングラブ賞とシルバースラッガー賞を同時に獲得し、たちまちチームの看板選手の一人となった。

 ところが、昨季はフラストレーションのたまるシーズンとなった。本塁打数は28と自己最高でチーム最多、89打点もチーム最多だが、打率は2割4分9厘と自己最低を記録。盗塁数も前年の34、その前の年の35から大きく降下して19。ケンプ独特のハッスルプレーは「怠慢プレー」と呼ばれるほど守備に締まりがなく、「フレンドリー」と言われた評判は、度重なるコーチとの衝突で「問題児」に変わった。ケンプの代理人がトレード志願を示唆する発言をしたこともあり、「フランチャイズプレーヤー」の称号の価値も消えつつあった。

 光輝いていた若手選手がそこまで変わった要因は、ケンプがシーズン中に交際していた相手が歌手の大スター、リアーナだったことを挙げる者もいた。芸能界という派手な世界にいる女性と一緒になることが、ケンプの野球への集中力を低下させているというのだ。

練習だけでは超えられない壁

 それが事実だったかどうかは分からない。だが、最も大きな理由は、昨季までのドジャースの監督だったジョー・トーリが繰り返し話していたことではないかと思う。
 「体は準備しても精神的な準備がついていけていない」。ここ数年リーグでも有数の打者にのし上がったケンプには、どのチームも研究を重ね、立ち向かってくる。毎試合、毎打席その勝負に打ち勝つためには、バットを一生懸命振り回すだけでは対応できないということだ。

 昨季、ケンプはいつも熱心に練習をしていた。試合前のチーム練習が始まる前からバッティングケージで打撃を繰り返していたのだろう。汗まみれでバットを片手に歩いている姿を何度も目にした。
 成績が悪いから体にムチを打つように練習する。だが、試合で大した効果は得られず、イライラしてコーチと衝突し、やる気をなくしてしまう。「昨季は全然楽しくなかった」とケンプは振り返る。まさに悪循環の1年であった。

 ケンプの下降とともに成績を落としたドジャースは、3年ぶりにプレーオフ進出を逃した。そしてライバルチームであるジャイアンツのリーグ制覇を見る羽目になった。

 昨季を終えてから4カ月半。ケンプは新たな希望を持ってキャンプ地入りした。
「僕はこのチームのリーダーにならなければならない。そのために向上しなければ」

 昨季、トーリが言っていた「マットのことを焦らずに見てやってくれ。試合で結果を出すために、がむしゃらな練習以外で何が必要かを見いだした時、彼は素晴らしい打者へと成長するから」という姿を、今季見られると信じている。

<了>
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著者プロフィール

ロサンゼルス在住。同志社女子大学在学中、同志社大学野球部マネージャー、関西学生野球連盟委員を務める。卒業後フリーアナウンサーとしてABCラジオの「甲子園ハイライト」キャスター、テレビ大阪でサッカー天皇杯のレポーター、奈良ケーブルテレビでバスケットの中体連と高体連の実況などを勤め、1995年に渡米。現在は通信社の通信員としてMLB、NBAを中心に取材をしている。ロサンゼルスで日本語講師、マナー講師、アナウンサー養成講師も務めている。

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