“ミスターインディー”入江秀忠、メジャー団体への道 〜序章〜

入江秀忠
「何があってもあきらめないことだ……そうすれば夢は、いつか必ず実現する」
 この言葉は、我がキングダムエルガイツの前身U・W・F・に古くから残る言葉である。おれは伝統あるこの団体を引き継いだ時点でこの言葉を肝に命じ、いくつもの(もはや、これまでか?)という困難も乗り越えてきたつもりだ。だけど今回歩き始めようとしている道は、あの果てしなく遠く、そして険しかった“メジャーへの道”をも凌駕するであろうこと覚悟をしている。それは、おれの永遠のテーマでもある“世間との戦い”を意味していた。

 そして、新たなる道。人は夢が実現すると、心にぽっかりと穴があく。あの激動のSRC13両国決戦を終えて、一つの目標をやり遂げたことの充実感ともう戦わなくてすむという安堵感で、おれは平和ボケした毎日をただなんとなく過ごしながら、しかしながら確実に成長した自分を感じていた。
 きっかけは、突然やってきた。もはや格闘技界に忘れ物はなんにもない筈のおれなのに、いつも微妙に頭の片隅でひっかかる“何か”を感じていた。もしかしたらその“何か”は、まさかまさかのヒクソン(グレーシー)戦の事なのか? いやヒクソンはすでに現役とはいいがたく、たとえ相手が誰であろうとも実現する可能性はもはやないであろう。じゃあ、それは一体なんなのか? おれはその正体のわからぬモヤモヤを感じつつも、なんら変わらぬ日常を過ごしていた。

旧キングダムの聖地、代々木第2体育館へ

 ある日、夏の日差しから避けるようにキングダムエルガイツ事務所のソファーでうたた寝していたおれは、突然その“何か”を思いだし飛び起きた。「そうだ、これだったんだ! 心に引っかかっていたものは」。おれは、倉庫から古い週プロを約10年ぶりに取りだすと、旧キングダムの崩壊の時の記事を改めて読み返した。

 王国、亡国に終わる――。それは旧キングダムとしての最終興業が横浜文化体育館で行われ、かって格闘技界に降盛を誇ったはずのキングダムはほとんどの選手を失い、所属選手は安生(洋二)先輩と、このおれの2人のみ。頼りの綱のビリー・ジャック・スコットら外国人選手も飛行機トラブルで来日できず、4000人規模の会場に数えられるぐらいの観客しか入らなかったという事実上団体の息の根を止めた興業である。おれの試合の記事を見ると、まだ若かりし頃のおれは格闘技界の流れを変えられるような選手になると高らかに宣言している。が、まさか10年後に“格闘技界1の問題児”に育つはめになるとは、この時は予想だにしなかった。

 おれは1998年にUWF直系団体のキングダムに入団。あの“何か”は修斗で行き場のなかったおれを拾ってくれた、キングダムへの恩返しでもあったのだ。団体は入門1カ月で崩壊してしいまったが、当時残務整理しいていたフロントスタッフもまだ残っていたし、ファンとの交流では本当に無念の思いがヒシヒシと気持ちに伝わってきたものだった。そして当時まだ20代の紅顔の美少年(笑)だったおれは、誰もいなくなった団体崩壊時の高田さん、田村さん、桜庭さん、金原さん、高山さん、垣原さん、山本(喧)さん、などの錚々たるメンバーが名前を連らねるあのロッカールームでの誓い「この団体を、歴史と伝統があるこの団体を必ず復興させること」。その熱い思いを、二人でそうめんを食いながら一番弟子のRYOTAにとくとくと語った。今や“格闘技きってのはぐれ者集団”といわれるキングダムを、メジャー団体に戻すまでスポナビのコラムで追いながらやっていくと説明するのだが、いまいち彼の反応が鈍い。
「入江さん、メジャーへの道は、先週終わった筈じゃなかったですか?」
「だから、“メジャー団体への道”としてまた始まるんだよ!」
「……で、最終的には何処を目指すんですか」
「旧キングダムの聖地、代々木第2体育館だよ(堂々と)」
「このメンバーでやるんですか……不可能ですよ!」
 代々木第2体育館には、おれは本当に特別な思い入れがあった。UWFインターの解散後、U系で初めてグローブ採用を解禁して鳴り物入りで旗揚げしたキングダムの旗揚げの地。それは当時修斗のアマチュアだったおれも旗揚げ戦に駆けつけたが、超満員で入場できずに悔しい思いをしたものだった。「も〜やるっていったらやるの、おれは決めたの!」。また散々付き合わされる事を早々と察知し、なかば泣きそうな顔になっているRYOTAの気持ちは意に介さず、おれは強引に“メジャー団体への道”を歩き始めることを宣言した。(おれは子供か? 子供なのか?)

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著者プロフィール

1969年6月17日 生まれ。長崎県出身。キングダムエルガイツ代表。インディ格闘家・プロレスラー

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