王者イタリアに“らしくない”守備の乱れ=グループリーグで早くも正念場

宮崎隆司

武器はチームとしての結束力

パラグアイ戦ではセットプレーから先制点を許した。今大会のイタリアは自慢の守備に綻びが見られる 【(C) FIFA/FIFA via Getty Image】

「自分たち本来のスタイルをベースにしながら、しかし相手によって戦い方を柔軟に、あるいは劇的に変えることもある」
 もはや今日のサッカー界では半ば聞き飽きたかのような言葉だが、ワールドカップ(W杯)開幕前の5月、イタリア代表監督のマルチェッロ・リッピは繰り返しこう述べていた。
 そしてこの指揮官が必ず付け加えていたのが、「われわれの武器はチームとしての結束力、これ以外にない」――。要するに、いかなる監督の指示にも決して背かず、忠実に仕事を遂行するメンバーで現イタリア代表は構成されている、ということだ。だがその一方で、ファビオ・カンナバーロもアンドレア・ピルロも「世界王者の肩書きはそう簡単に渡さない」とは語ったが、チームがやけに小さくまとまった感は否めなかった。

 つまり、現イタリア代表の中に、ひとつ上のカテゴリーに属する選手はいない。アルゼンチンにはリオネル・メッシ、ポルトガルにはクリスティアーノ・ロナウド、ブラジルにはカカ、イングランドにはウェイン・ルーニーが絶対的存在として君臨するが、同様のレベルにある選手はイタリアにはいないのだ。加えて、クリエーティブなプレーをつくる上で唯一の存在であるピルロが故障。復帰は決勝トーナメント1回戦以降と目される中、イタリアはさらに「結束」を固める以外に、前に進む方法をなくしていたと言えるだろう。

 普段から組織力を売りとするイタリアが、いつにも増してその力に重きを置く、むしろ置かざるを得ない、と。守備も攻撃も一貫してコレクティブ(組織的)に。これがピタリとハマれば強いが、わずかでも集中力が切れようものなら途端に崩壊する。言ってみればいつものイタリアらしい形だが、これだけ小粒になったチームに対し、それでも「W杯連覇」を信じようとする声がなおもある一方で、「決勝Tに進めれば御の字」という声が早くから聞かれていたのは当然と言えるだろう。

自慢の守備に綻び

 事実、グループリーグ初戦の対パラグアイは、そんな現代表の力量を端的に表す一戦だった。チームの限界を垣間見せたとも言える。試合開始から果敢に、とりわけ右サイドのペペを基点に攻めの形を作ってはいたのだが、相手ゴール前16メートルまでは一向に到達できず、半ば一方的に攻め込むも前半をわずかシュート1本で終えている。そして、その一方では、守備に小さくはない綻びを見せていた。

 例えば前半21分、文字通りわずかな集中力の欠落を突かれて相手に決定機を与えている。4−2−3−1の「3」の中央に入ったクラウディオ・マルキージオがポジショニングを誤り、簡単に中盤中央から右に展開されると、そのボールを受けようとした相手に左サイドバックのドメニコ・クリシートがマークに付けず、自陣の中央ではダニエレ・デ・ロッシが完全にカバーリングに遅れた。結果として自分たちの左サイドを崩されると、たやすくアウレリアーノ・トーレスにシュートを打たれたという場面だ。
 実に“らしくない”守備の乱れであり、それをリッピは試合後、「ゲームを経るごとに改善されていく」という言葉で取り繕ったが、このマルキージオを「3」の中央で使うことが、現時点で得策でないことだけは明らかになったと言えるだろう。

 とはいえ、試合はイタリア優勢で推移した。だが、フィニッシュにいけないチームは往々にして不意に失点を喫してしまうものだ。事実、したたかな守りを続けていたパラグアイは39分、前半で唯一の得点機(FK)から1点を決めている。セットプレーでの守りで、ボールが放たれる前にイタリアの守備陣が下がり過ぎたことが要因だが、マークすべき選手を放してしまったデ・ロッシが「あれは完全におれの責任」と言うように、半ば取られるべくして取られたゴールであった。

 こうして前半は0−1で終了。前掛かりにならざるを得ないイタリアは後半も積極的に仕掛けるが、流れを変えることはできず。むしろGKジャンルイジ・ブッフォンが腰の痛みで退場を余儀なくされ、後半開始からフェデリコ・マルケッティが入るという状況を強いられることになった。代表歴の浅いGKであるだけに、小さくはない不安がチームを覆っていた。そしてなおも4−2−3−1は機能せず、54分には再び決定機を相手に与えている。このままでは2点目を喫するのは時間の問題――誰もがそう予感していた時間帯だった。自慢であるはずの守備も、主将カンナバーロが細かなミスを繰り返すなど、決して安定していたとは言い難い。

 そして試合は、後半に入っても前線でジラルディーノが孤立し、前半と同様に形は作るがフィニッシュにいけないというシーンが連続していた。よってリッピは59分にマウロ・カモラネージを投入し、ビンチェンツォ・イアキンタを中央に移すことで4−4−2に移行。そして迎えた63分、セットプレーからとはいえ、失点の責任を挽回(ばんかい)すべくデ・ロッシが気迫で押し込みゴール。辛うじて試合を1−1の振り出しに戻してみせた。 
 しかし、結局はここまで。追加点を奪うには至らず、1−1のまま終了。直後の試合でスロバキアとニュージーランドが引き分けたため、グループFは4チームが同ポイント同スコア(1分け、1ゴール1失点)で並ぶことになった。

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著者プロフィール

1969年熊本県生まれ。98年よりフィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。2004年の引退までロベルト・バッジョ出場全試合を取材し、現在、新たな“至宝”を探す旅を継続中。『Number』『Sportiva』『週刊サッカーマガジン』などに執筆。近著に『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜』(コスミック出版)

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