内藤大助、帰って来た「国民の期待」

平野貴也

亀田興戦以来、5カ月ぶりの復帰戦を5回KO勝利で飾った内藤 【写真は共同】

「内藤、お帰りー!」
 日曜日の真昼、熱気に包まれた後楽園ホールのバルコニーから声援が飛んだ。プロボクシング元WBC世界フライ級王者の内藤大助(宮田)が9日、スーパー・フライ級ノンタイトル10回戦に臨み、リエンペット・ソー・ウィラポン(タイ)を5R2分12秒KOで下した。昨年11月に亀田興毅(亀田ジム・東日本協会預かり)に世界王座を奪われて以来5カ月ぶりにリングに帰って来た「国民の期待」を、大観衆は温かく迎えた。リング上でマイクを向けられた内藤は「ちょっと、緊張したね。今日は、お昼の興行にも関わらず、こんなに人が入っていてビックリした。それが一番嬉しいね」とベルトを奪われても衰えない人気に感謝していた。

 この日のチケットは、最安値の自由席で6300円。通常に比べると約2倍の価格だったが、座席が売り切れても立ち見の客が入場するほどの盛況で、会場にはムエタイの元世界王者・武田幸三さんや、総合格闘家の菊田早苗、泉浩らの姿もあった。二度にわたる亀田兄弟とのビッグマッチでネームバリューを上げた内藤への関心の高さがうかがえた。

ベテランらしく結果をきっちりとまとめる

終始動きは固かったが、ベテランらしくしっかりと結果をまとめた 【写真は共同】

 試合はKO勝利で飾ったが、本人が話したように終始、動きは硬かった。
 1R、内藤は小刻みに動いてプレッシャーをかけたが、タイ国のライトフライ級王者であるソー・ウィラポンのジャブがよく当たる。内藤は早くも被弾によって左目の上を負傷した。2Rには左フックを空振りしてバランスを失ったところへ右のオーバーハンドをかぶせられ、大きくよろけるようにステップし苦笑いする場面も見られた。

 しかし、両者の実力差は明らかでパワーも内藤の方が上だった。3Rの終盤には接近戦から離れ際に左フックをヒット。続けざまに左ショート、ワンツー、右アッパーとたたみかけ、やや強引な攻めだったがペースを握った。4Rには偶然のバッティングで左目の上から大きく出血するが、めっきり手数の減ったソー・ウィラポンを的のようにして下から上へ左のダブルなどパンチを打ち込んだ。

 5R、1分20秒ほどが経過したところで内藤の右ストレートがヒットし、ソー・ウィラポンがダウン。さらに左右の連打を浴びせると二度目のダウンは大の字。それでもタイの王者は立ってきたが、内藤が棒立ちになった相手へ連打を繰り出すと、レフェリーが試合を止めた。快勝とは言い難いが、ベテランらしくきっちりと結果をまとめたところはさすがだった。

世界王座返り咲きへ、高まる期待

今後の展望は「ゆっくり考える」と話すにとどめたが、世界王座返り咲きへ期待は高まる 【写真は共同】

 1974年生まれの内藤は、8月に36歳の誕生日を迎える。年齢を考えれば亀田戦が潮時だったが、それでも今年1月に現役続行を表明したのは、再び世界王座に就くためだ。そのため、この日の試合は「復帰戦」、「再起戦」というだけでなく「世界前哨戦」とも銘打たれていた。

 リング上で今後の展望を聞かれた内藤は「ゆっくり、考えます」と観客の期待をはぐらかしたが、今春の連戦で長谷川穂積(真正)、名城信男(六島)が敗れ、日本ジム所属の世界王者が4人に減ったこともあり、内藤の世界王座返り咲きへの期待は高まっている。内藤が再び世界王座を獲得した場合、元WBC世界フェザー級王者・越本隆志さんの持つ国内最年長戴冠記録(35歳)を更新する快挙となる。

 また、フライ級は現在、WBAで王者・亀田大毅(亀田ジム・東日本協会預かり)と坂田健史(協栄)の一戦が計画されており、好カード実現が可能な階級。当然、亀田興とのリマッチも視野に入る。年齢的に長く待つ立場にはいられないが、内藤は現在の日本ボクシング界に火をつけられる貴重な存在だ。「国民の期待」復活は、大きな意味を持つ。
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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