ジャンプW杯開幕、五輪シーズンの勢力図 日本ジャンプ陣の活躍は!?

小林幸帆

W杯ジャンプの開幕戦はノルウェーのロメレンが通算8勝目を挙げた 【Getty Images Sport】

 ウィンタースポーツ各競技の五輪シーズンが続々と開幕するなか、27日にはスキー・ジャンプのワールドカップ(W杯)開幕戦(団体戦)がフィンランドのクーサモで行われた。
 日本は団体で8位、個人第1戦(HS142メートル、K点120メートル)では栃本翔平(雪印)が282.7点でこれまでの自己最高の10位を上回る6位に入った。伊東大貴(雪印)は275.5点で9位、葛西紀明(土屋ホーム)は273.5点の10位、竹内択(北野建設)は214.9点で27位だった。湯本史寿(東京美装)は上位30人による2回目に進めなかった。

 W杯は、開幕戦を皮切りに2010年3月14日の最終戦(オスロ/ノルウェー)まで、スイス、チェコ、ドイツ、オーストリア、ポーランド、そして日本と、世界計8カ国を舞台に戦いを繰り広げる。2月にはバンクーバー五輪が、3月19〜21日にフライング世界選手権(スロベニア)が開催される今シーズン、W杯は個人24戦、団体4戦の計28戦が予定されており、そこで獲得した合計ポイントでW杯個人総合順位と国別順位を争う。

注目と議論を集めた新採点方式は期間限定採用に

 今シーズンは、夏の大会(サマーGP)で試行された新採点方式が本シーズンでも採用されるかどうかに注目が集まっていたが、2010年1月30日以降のW杯のみ採用となった。
 ジャンプは飛距離+飛型点の合計で争われ、着地などで目立った失敗がない限りは、飛距離がそのまま結果に反映されると考えてよい。
 だが、昨シーズン、ゲート(=スタート位置)変更による飛び直しや、悪条件による中断、不平等な条件(風)での試合が繰り返され、試合の中断および長時間化などが目立ったため、公平性と柔軟性を備えた新採点方式がサマーGPで試験的に用いられることになった。
 新方式は、従来の得点2要素にゲートと風の2要素を加えたもので、飛距離に有利に働くゲート上げや向かい風があれば、その分だけ減点となり、逆にゲートを下げたり、追い風の場合はその分だけ加点するという仕組みだ。
 減点、加点には、ジャンプ台の形状に基づき計算された補正数値が用いられるが、サマーGP最終戦クリンゲンタール(ドイツ)の補正数値は、1ゲートにつき3.4点、風は秒速1メートル(以下M)につき9.36点であった。
 この試合は19ゲートでスタートしたが、途中でゲートが上げられたため、ゲート21から飛ぶことになった選手には、ゲート2つ分にあたる6.8点が合計点から減点された。
 また、この試合では風条件補正により実際の飛距離と順位が逆転という現象も見られた。
 飛距離139.5メートルのハリ・オリ(フィンランド)は、飛距離136.5メートルのグレゴア・シュリーレンツァウアー(オーストリア)に飛距離点で5.4点上回った。飛型点ではオリが0.5点下回ったものの、従来の採点方式であればオリは合計142.6点、対するシュリーレンツァウアーは137.7点となり、4.9点上回ったオリに軍配が上がっていたことになる。
 ところが、実際に用いられた新方式では、秒速1.43メートルの向かい風を受けたオリが13.4点の減点となり、秒速0.43メートルの向かい風で減点4にとまったシュリーレンツァウアーが4.5点差で逆転勝ちすることになった。

賛否分かれる現場

 9月末の国際スキー連盟(FIS)会議では、1カ国を除き冬シーズンでの新方式採用に賛成したということから、現場関係者は揃って肯定的に受け止めていることが分かる。日本の関係者も「非常に賛成。もっと早くからあればよかった。日本で試合を従来のルールでやってみたが不公平で面白くなかった(笑)」(菅野範弘コーチ)、「公平。運では勝てなくなった」(栃本翔平)、「ポイント差が小さくなったので上位に行きやすくなる。1メートルで一発逆転も可能。順位変動も激しくなるので、やっていて面白い」(湯本史寿)と好評だった。

 一方、自国での報道によれば「賛成しなかった1カ国」とされているのが、ここ数年、敵なしの強さを誇るオーストリアだ。昨シーズンW杯総合王者のシュリーレンツァウアーは、以前から、飛距離と順位が一致しなくなる可能性、それによるショー的要素の消失を指摘していたが、最近のインタビューでも、試合中断などを避けられることは歓迎しつつも、「公平性というアイデアは素晴らしいが、ジャンプは運と不運のつきまとう屋外競技。ありえないようなことが起きた試合は忘れられることなく語り継がれてきたが、そうしたこともなくなってしまう。コンピューターで(条件が)正確に計算できるものなのかも分からない。選手と観客にとっては明白さが最大の課題。ジャンプは、より飛んだ者が勝つという競技だったのだから」とその意見を変えていない。
 チームメイトのウォルフガング・ロイツルも、スタートゲート変更による飛び直しがなくなることは評価しながらも「新方式の必要性を感じない。たとえ悪い風に当たって腹立つことがあっても、屋外競技の魅力があった」としている。
 公平さが求められるのは当然だが、数値化された風条件の正確さや、風がもたらすジャンプ競技の個性が失われることが課題として残るのも事実ではないだろうか。新方式は、すでにゲート変更の権限がジュリーに限定されるという改善がなされたが、今後も改善や試行錯誤、議論が注目されることになりそうだ。

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著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

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