ジャンプW杯開幕、五輪シーズンの勢力図 日本ジャンプ陣の活躍は!?

小林幸帆

強豪3カ国を追う日本チーム

個人戦で6位に入った栃本(写真)ら日本選手3人が10位以内に入った 【写真は共同】

 日本チームの昨シーズン、W杯国別順位は7位となったものの、世界選手権団体の銅、W杯では湯本史寿と岡部孝信が優勝、葛西紀明が表彰台と目立つ成果があった。
 W杯個人総合順位は葛西の15位がトップで、国別順位は一昨シーズンの8位より順位を1上げている。国別で見れば、今季もオーストリア、ノルウェー、フィンランドが第1グループ、続いて日本、ドイツ、ロシア、ポーランドが混戦状態で第2グループを形成というのは変わらないだろう。日本は、第2グループから抜け出し、第1グループにより近づくことを目指すことになりそうだ。
 サマーGP国別成績ではノルウェーに次ぐ2位、個人でも白馬大会で葛西が優勝、表彰台に3回(伊東2回、湯本1回)、そして個人総合ベスト15に4選手(伊東、葛西、湯本、竹内)が入る好成績で、菅野コーチも「これだけの成績はこれまでなかった。昨年のサマーGPよりは成績が上がっている」と総括した。

ベテランと若手の競争が相乗効果を

 サマーGPはトップ選手が不参加の場合も多く、そのまま冬の成績につながるとは限らないものの、直接ライバルであるドイツのシュスター・コーチが開幕を前に「オーストリア、フィンランド、ノルウェー、日本が我々の前にいる」と語っており、今夏の日本チームがインパクトを残したことが分かる。
 開幕戦(団体戦)から個人第7戦(12月20日スイス・エンゲルベルク)までは、葛西紀明(土屋ホーム)、岡部孝信、伊東大貴、栃本翔平(以上雪印)、湯本史寿(東京美装)、竹内択(北野建設)の6選手が参戦する。
 五輪選考が個人第11戦(1月6日オーストリア・ビショフスホーフェン)までのW杯個人総合順位、およびコーチ陣の話し合いで決定するため、どの選手にとっても開幕から結果を出すことが求められる。
「ベテランと若手の競争が相乗効果となっている」(菅野コーチ)
 という今の日本チーム、39歳の岡部、37歳の葛西の両ベテランが、やはり看板的な存在だ。実績はもちろんのこと、年齢に関係なく戦えるということを証明し、ジャンプ界に大きな影響力を及ぼしている両選手ゆえ当然のことなのだが、「日本はベテランだけじゃない」ということを強くアピールする選手の登場が待たれる。
 サマーGP個人成績では日本人トップの7位につけた伊東は、菅野コーチが「調子がいい時は表彰台に乗れる」とする選手だ。昨シーズンは「ジャンプどころじゃない部分もあって……」と、競技以外の面も影響してかW杯は29位に終わったが、新しい所属も決まった今シーズンは、初めて表彰台(3位)に上った04/05シーズンのW杯総合13位を上回るべく、次なる飛躍に期待がかかる。

 また、サマーGPで頼もしさを感じさせたのが竹内だ。昨シーズンは、今季に照準を合わせた基礎トレーニングを積むためにW杯転戦を途中で切り上げるという思い切ったことをしたが、本人はそこで積んだ練習が生きていると手ごたえをつかんでいる。これまでは、欲や気負いで自分のジャンプが出来なくなってしまっていたが、今は、そうした気持ちのコントロールも出来るようになったという。大きな大会の出場に手が届きながら選ばれなかった過去を振り返り、専門家とのメンタルケアも行っているという今季、「2本目に進むのは最低として、シングルに何回か入れるようにしたい」という目標を持って五輪切符を目指す。

 昨シーズンの日本選手の個人戦でのベスト10入りは全28戦で合計16回だったが、今季はそれを上回りたい。

打倒オーストリア、打倒シュリーレンツァウアー

 強豪3カ国の中でも抜けているのが、実力派スター選手を揃え、お隣ドイツでは「銀河系集団」ともいわれるオーストリアだ。昨シーズンは個人と団体のタイトル総ナメし、W杯国別ポイント最多記録となる7331点を稼ぎ、2位フィンランドに3000点以上の大差をつけ5連覇を達成した。
 中でも、昨シーズンW杯総合王者で、個人獲得最多ポイント、最多勝利など数々の記録を塗り替えた19歳のシュリーレンツァウアーは今季も優勝候補ナンバー1だ。
 昨シーズン終了直後、スキー板のテスト中に転倒し全治6週間の負傷に見舞われたが、本人の「ケガはつきもの。ポジティブに捉えるなら一番いい時期のケガだ」との言葉どおり、オフ中に治療をし、大きく出遅れることなく今季を迎えると、サマーGPでは3試合参戦で優勝2回に2位1回、国内選手権でもラージヒル、ノーマルヒルのW優勝と相変わらずの無敵ぶりだ。
 同国には、昨シーズンのジャンプ週間と世界選手権の覇者ロイツル(W杯3位)もいるが、注目はモルゲンシュテルンだろう。一昨シーズンは断トツでW杯王者となるも、総合7位と不調の昨シーズンは主役の座をチームメイトに譲ってしまった。今季はスキー板のメーカーを一昨シーズンまで使用していたものに戻すモルゲンシュテルン、かつての強さも取り戻せるか。

 オーストリアを追う1番手は、ジャンプ界のカリスマ、コヨンコスキー監督率いるノルウェーだろう。例年スロースタートの国だが、今年は夏から飛ばしサマーGP国別順位をトップで終了。厚い選手層、ベテランと若手のバランスも良く、オーストリアの牙城を崩すことも可能だ。
 エースは、サマーGP第6戦で優勝し、シュリーレンツァウアーの優勝街道に唯一ストップをかけたアンデシュ・ヤコブセン。昨シーズンは練習では常時トップも、本番では2本揃わないジャンプに泣かされ、総合8位の“ミスター・練習”に終わったが、安定感が備われば優勝も十分に狙える。ヤコブセンが個人戦で躍進となれば、それにつられてトム・ヒルデ、ヨハンレメン・エベンセンらチーム全体の好成績にもつながりそうだ。

 世界選手権でメダルなしに終わったフィンランドだが、昨シーズン終盤に3勝し、今季総合優勝争いの一角と目されるオリ(昨シーズン4位)が登場し、再びジャンプ大国への道が見えてきた。復帰で注目のヤンネ・アホネンはメジャー大会のみ参戦となるが、夏の国内選手権でいきなり優勝とブランクを感じさせない。帰って来た大黒柱アホネンに、爆発的な力を持つオリ、一か八かのマッティ・ハウタマキ、負傷から1年ぶりに復帰のヤンネ・ハッポネン、そして新星ヴィレ・ラリントと、個性派ぞろいのフィンランドは、フタを開けるまで分からないワクワクを感じさせる。

 そして忘れてならないのが、昨シーズンは最後までシュリーレンツァウアーに食い下がったスイスのシモン・アマンだ。五輪と世界選手権では個人メダルを一人占めも(金3銀1銅1)、W杯総合優勝はまだない。近年4シーズンは、夏を制した者が冬のW杯も制しているが、今年のサマーGP覇者は他ならぬアマンだった。

 個人と国のプライドをかけた戦いの火ぶたが切られるジャンプ。今季も寒さなど吹っ飛ぶ興奮のるつぼへといざなってくれることだろう。

<了>

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著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

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