凋落著しいセリエAに未来はあるのか=イタリアサッカー界を襲う危機

宮崎隆司

インテルからイブラヒモビッチ(左)、ミランからカカが去るなど、セリエAはスター選手の流出が続く 【Getty Images】

 1980年代末に始まったミランによる欧州席巻以降、おおよそ十数年にわたってセリエAは世界屈指のリーグとして名声をほしいままにしてきた、というのは周知の事実である。ところが、その実態とはミラン、またはユベントスという一握りのチームがチャンピオンズリーグ(CL)で上位を占めていたにすぎず、傍らでは、つまりイタリア国内では実に多くの矛盾と問題を抱えてシーズンを重ねていたのだ。

 そして今日、そうした実態が、ここ数年のイタリア勢不振という形で表面化してきた。それはこの国のサッカー関係者の多くが早くから指摘していたことであり、にもかかわらず誰一人として、そして何一つとして具体的な策を施してこなかった“ツケ”である。より長期的な視野に立つプレミアリーグ(イングランド)、リーガ・エスパニョーラ(スペイン)、ブンデスリーガ(ドイツ)の今日に見る優位も、すでに10年も前から容易に予測し得ることであった。

放漫経営の果てにある巨額の赤字

 では、その主な要因とは何か?
 まず第一に挙げるべきは、信じ難いまでの放漫経営。これは言うまでもなく収入を度外視したチーム作りであり、例えばインテルは年間200億円をはるかに超える赤字を記録し続けながら、選手の年俸は年を追うごとに増加を続け、昨シーズンはその総額がおおよそ170億円にも達している。
 高額のサラリーを必要とする選手をかき集めてチームを作ったわけだが、結果はと言えば、一昨シーズン、そして昨季と続いて国内を圧倒的な強さで制するも、CLではいずれれも決勝トーナメント1回戦で敗退。タイトル獲得で舞い込んでくる賞金を手にすべくもくろむも、その夢はかなわず、そしてついに今季はほかならぬエース、イブラヒモビッチの売却を余儀なくされたというわけだ。
 ちなみに、そのイブラヒモビッチの昨季の年俸は約16億円。これは、同じくセリエAに所属していたクラブ、レッジーナの選手全員の年俸総額を超える額である。

 ミランもしかり。収支バランスはインテルとほぼ同額。よってカカの放出はあくまでも財政再建が目的であり、事実90億円もの売却益を得るも、獲得した大物はクラース・ヤン・フンテラールのみ(費やした額は約20億円)、その大半が赤字補てんに充てられている。ローマはクラブ売却問題になおも揺れ続け、上位クラブの中ではユベントスが半ば唯一のプラス収支とされるが、セリエA20クラブの約7割は惨憺(さんたん)たるマイナス経営であり、結果として約350億円規模の赤字をリーグ全体で記録し続けている。

“右肩下がり”を続ける観客動員数

 そして二番目は、スタジアム所有に関する問題である。セリエAの全クラブが自前のスタジアムを持っておらず、それを管理する市当局に各クラブが毎年膨大な額のレンタルおよび維持管理費用を払っている。よって頼みの綱は入場料収入となるわけだが、これがあろうことか文字通りの“右肩下がり”を続けているのだ。ピーク時の1984−85シーズン(リーグ全体の年間平均観客動員約4万人)との比較で、現状はマイナス約52%という域にまで落ち込んでいる。

 従って、当然のことながら、収益全体に占める入場料収入の比率も下がり続けている。一昨シーズン、この比率をプレミアが35%としたのに対し、セリエAのそれはわずかに13%。クラブ経営の柱とされる収益「入場料、マーケティング、テレビ放映権」を、順に「35、26、39」とバランス良く配しているプレミアに対し、セリエAは「13、24、63」。著しいスタジアム離れと同時に、過度な「テレビ放映権料」への依存体質を如実に示している。

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著者プロフィール

1969年熊本県生まれ。98年よりフィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。2004年の引退までロベルト・バッジョ出場全試合を取材し、現在、新たな“至宝”を探す旅を継続中。『Number』『Sportiva』『週刊サッカーマガジン』などに執筆。近著に『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜』(コスミック出版)

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