凋落著しいセリエAに未来はあるのか=イタリアサッカー界を襲う危機

宮崎隆司

悪化するスタジアム周辺の治安

変革が求められるセリエA。さもなければ、レオナルド監督の言葉が現実となってしまう…… 【Getty Images】

 なぜ、これほどまで急速なファンのスタジアム離れが進んでしまったのか。その答えが、第三番目の要因――悪化の一途をたどるスタジアム周辺の治安――である。近年で最大の出来事と言えば、2007年2月2日に起きたカターニアでの惨事。パレルモとの“シチリアダービー”で両軍ティフォージ(ファン)が大規模な暴動を起こし、これを静止しようとした警官隊一人の命が奪われてしまうという事件へと発展してしまった。
 こうした事例の枚挙にいとまがないのがイタリアであり、昨季の開幕戦(ローマ対ナポリ)ではナポリのティフォージが暴徒化し、多数の負傷者を出す事態に発展。また、第24節には、サンプドリア対フィオレンティーナ戦の直後、フィオレンティーナの選手を乗せたバスがサンプドリアのファンをはねて重症を負わせるという事件もあった。

 週末のたびに各地のスタジアムで暴動が、そして事故が起きるわけだが、無論そうであれば、例えば家族連れといったファンの足は自然と遠ざかるよりほかない。よって、クラブ側はチケット価格を上げることで一定の収入を確保しようとする。
 ところが、社会はと言えば失業率が全国平均で12%を超えるという状況にあり、高額のチケットに多くのファンが手を出せなくなってしまっている。こうした逃れ難い悪循環に陥っている以上、スタジアムに空席が目立つのも、やはりやむを得ないと言うべきところか。

スター選手流出を招く税制の不備

 そして四番目が、税制。カカやイブラヒモビッチの移籍に際して盛んに言われたように、スペインでは“外国人労働者”が5年間の特別優遇措置を享受するのに対し、それがイタリアにはない。両国共に通常の税率は43%、しかし、スペインではこれが5年間は23%に抑えられる。結果、カカはミラン在籍時と同じ年俸(約12億円)をレアル・マドリーで得るわけだが、その額を満たすためにミランが総額18億近くを支払っていたのに対し、レアル・マドリーはそれを15億円弱にとどめることができる。そして、この5年を終えたからこそ、バルセロナはロナウジーニョを放出した、とも言われている。
 こうして、キャリアのピークにある選手が、または間もなくピークに達する選手がイタリアから去っていくことになるというわけだ。

 以上の4点、「信じ難いまでの放漫経営、スタジアムに関する問題、悪化する治安とチケットの高騰、そして税制の不備」という構図の中で、イタリアは、プレミアとリーガに続いて辛うじて欧州3位の座を保つと言われるが、実際のところ、リーグ全体の収入ではブンデスリーガに早くから抜かれている。

欧州における“セリエB”落ちを防ぐために

 盟主復活への道は限りなく困難であると言わざるを得ない。
 だが、それでもあえて、いちるの望みを見いだすとすれば、それは唯一、国内の若手選手たちの台頭ということになる。今後もイタリアを去る外国人選手の数が確実に増えると予想され、と同時に入ってくる大物も減る以上、ならば必然的に“国産”を使う頻度が高まり、必要な経験を多くの若手たちが積むことが可能になる。

 06年に始まった大規模な国内ユース組織の見直し、育成レベルの拡充と質の向上が着々と進められる中、とりわけ現在のU−14からU−17に、優秀な選手が続々と輩出されている現状がある。なおもしばらくはイングランド、スペイン、ドイツの後塵を拝し続けるのだろうが、こうした若手を積極的に起用していく流れができ上がれば、あるいはイタリアサッカー界そのものの体質もまた変化していくのではないか。

 ユベントスが旧デッレ・アルピ跡地に一大スポーツ施設の建設を進めているように、フィオレンティーナやパレルモも独自のスタジアム構想を掲げている。こうした動きが広がり、そしてリーグ全体で「放漫経営を改め、スタジアムの所有権を手にし、治安の改善に向けた努力を重ね、そして税制の不備と高騰するチケットという現状を変える」――との取り組みがなされれば、前述した3カ国の背中も徐々にとはいえ、見えてくるのであろうが……。

 その努力が急がれているのは紛れもない事実であり、むしろこれができなければ、ミラン監督のレオナルドが言うように、近い将来、『セリエAは欧州における“セリエB”に落ちる以外になくなる』。今季のCLに参加するのはインテル、ユベントス、ミラン、そしてフィオレンティーナ(プレーオフから参戦)。4強に寄せられる期待は、イタリア国内において、かつてないまでに大きく膨らんでいる。

<了>

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著者プロフィール

1969年熊本県生まれ。98年よりフィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。2004年の引退までロベルト・バッジョ出場全試合を取材し、現在、新たな“至宝”を探す旅を継続中。『Number』『Sportiva』『週刊サッカーマガジン』などに執筆。近著に『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜』(コスミック出版)

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