“高速水着”とは何なのか?=競泳用水着に起こった革新的開発

スポーツナビ

「浮くみたい」の理由は、軽さ

レーザーレーサーの発表により、「“スイミング・ウェア”が“スイミング・ギア”に変わった」と話す小嶋事業部長 【スポーツナビ】

 では、何が“高速水着”のポイントなのか?
 レーザーレーサーには、理想の泳ぎのフォームを維持するために、体を支える「コア・スタビライザー」というパーツを使ったり、水着に強いフィット感を持たせたりしている。また、このフィット感には、水の抵抗を受けにくいフォームを作るだけでなく、泳いでいる最中に、筋肉が微妙に揺れることで生まれる疲労を軽減させる効果もある。これが「レースの最後に疲れない」という特徴となる。

 また、“軽さ”も一つのポイントだ。従来の水着は、ニット(織物)であり、繊維の間にすき間があるため、水を含んで重くなる。それに対し、レーザーレーサーで使っている「レーザーパルス」という素材は、水を含みにくい織物素材なのだ。
「レーザーレーサーは、高密度に折って製造されるので、水が入るすき間がほとんどないのです」。
 水を含んだときの重さで見ると、従来の水着が1平方メートルあたり403.2グラムなのに対し、レーザーパルスは125.9グラムと、3分の1以下になる。この軽さが「浮くみたい」という評価につながってくるのだ。
「もちろん浮くことはありません。それは水着の構造上、ありえないことです。ただ『浮くみたい』というのは、軽いという誉め言葉なんです」。

「スイミング・ウェア」から「スイミング・ギア」へ

 競泳水着にあった固定観念を振り払い、発想の転換から生まれたレーザーレーサー。それは、「スイミング・ウェア」が「スイミング・ギア」へと生まれ変わるターニングポイントとなった。この水着の成功から、ほかのメーカーでも、開発は構造と素材へと重点がシフトされていった。たとえば、スイマーの水中姿勢を維持するために、水着をパーツで組み合わせたり、水中の抵抗を低くするために締め付けを強くする特徴を持つものもある。また、素材では、より軽くするために、厚さを押さえた素材を使ったり、水が浸透しないラバー素材などを使用している。

 こうした開発競争のなか、今回FINAからの新規約が発表される。素材は織物素材に限定し、ラバー製やポリウレタン製の水着を禁止するなど、28日には素材の細部についての規約も発表される予定だ。

 ただ、新規約の適用が来年からとなるため、“高速水着”に身を包んだスイマーたちの世界記録ラッシュは、今大会でも続くだろう。そしてその記録は、これから長い間、更新されることのない、“奇跡の世界記録”となってしまうかもしれない。

<了>

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