全米一の野球都市・セントルイスで球宴開催=プホルスは地元で爆発するか?

上田龍

セントルイスで43年ぶりの開催

カージナルスの本拠地、ブッシュ・スタジアムで第80回オールスターゲームが開催される 【Getty Images】

 来る7月15日(日本時間)、セントルイス・カージナルスの本拠地ブッシュ・スタジアム(3代目)で、第80回MLBオールスターゲームが開催される。セントルイスでの球宴は1966年の2代目ブッシュ・スタジアム以来43年ぶり5回目となるが、カージナルスは40年、48年、57年のスポーツマンズ・パーク(初代ブッシュ・スタジアム)、66年に続き、同一都市をフランチャイズとするチームとして、3つ目の本拠地スタジアムでホストを務める初のチームとなる。(48年はブラウンズ=現ボルティモア・オリオールズのホストゲーム)。

 47年、ドジャースから近代MLB初のアフリカ系メジャーリーガーとしてジャッキー・ロビンソンがデビューしたとき、当時の16球団でもっとも南に本拠地を置き、人種差別の激しい深南部(ディープサウス)から訪れる観客も多かった影響から、カージナルスは当初ドジャースとの対戦をボイコットする動きを見せた。実際に、ロビンソンに対してラフプレーが仕掛けられたり、観客席からも激しい人種差別的なやじが飛ばされるなど、球団、選手、ファンに激しい拒絶反応があった。
 それから半世紀を経たことし、その同じ地で、米国史上初のアフリカ系大統領となったバラク・オバマが始球式のマウンドに立つ。

もっとも野球熱の高い都市

 セントルイスは全米でもっとも野球熱の高い都市といわれる。1876年に旗揚げしたナショナルリーグにセントルイス・ブラウンストッキングスが加盟(2年間で解散)した後、82年にはナ・リーグの対抗組織アメリカンアソシエーション(AA)にセントルイス・ブラウンズが加った。AAの解体後は92年からナ・リーグの一員となって、1900年にニックネームを現在のカージナルスと改めた。さらに02年には、アメリカンリーグがミルウォーキーからフランチャイズを移動させてブラウンズ(現オリオールズ)が誕生する。

 カージナルスは1920年代、後にドジャースでロビンソンの登用に踏み切った名GMブランチ・リッキーがスカウト網やファームシステムの充実に努めた。これが功を奏し、26年、ロジャーズ・ホーンスビー監督兼二塁手のもと、ナ・リーグ加盟以来初のリーグ優勝を遂げ、ワールドシリーズでもベーブ・ルース、ルー・ゲーリッグを擁するヤンキースを4勝3敗で下して、最初の世界一に輝いた。一方のブラウンズはア・リーグの万年ドアマット球団だったものの、20年には強打者ジョージ・シスラーが、イチロー(マリナーズ)に破られるまで長くメジャー記録だった年間257安打を達成している。

 セントルイスの人口約35万人は、MLB30球団の本拠地としては最小の部類だが、バドワイザービールで知られるアンハイザー・ブッシュ社など世界的企業が本社や工場を置き、また合衆国のほぼ中心に位置して鉄道、高速道路、水運で交通の要衝でもあるため、300万人近い周辺人口を誇る。
 カージナルスのほか、NFLラムズ、NHLブルースのフランチャイズでもあるが、2006年までにナ・リーグ球団最多のワールドシリーズ優勝10回を誇るカージナルスは、地元のプロスポーツ人気で圧倒的な地位を占めている。
 ブッシュ・スタジアムでの試合開催日には、市内を南北に走る都市交通鉄道「メトロライン」の車内や球場へ向かう道路は、カージナルスの赤い帽子やTシャツで埋め尽くされ、満員のスタンドは“Red Sea(真紅の海)”とも形容される。

注目は何と言ってもプホルス

地元開催で活躍に期待がかかるカージナルスのプホルス 【Getty Images】

 オールスターでMVPが設けられたのは1962年からだが、昨年までカージナルス選手の受賞はない。しかしそれ以前のオールスターでもっとも目覚ましい活躍を見せたのは球団史上最高の打者、「ザ・マン」ことスタン・ミュージアルで、1955年、ミルウォーキーでの球宴では、5対5の同点で迎えた延長12回裏にサヨナラホームランを放つなど、オールスター史上最多の6本塁打、最多タイの24試合に出場している。

 そのミュージアルの域に達しつつある現在のアルバート・プホルスは、7月8日現在、31本塁打、82打点でナ・リーグのトップを走り、打率も2位の3割3分6厘とし、デビュー以来期待され続けている三冠王の可能性を高めている。2002、07年を除き、01年のデビューから出場を続けているオールスターでの通算成績は、6試合で14打数6安打、打率4割2分9厘、3打点だが、ホームランはまだ出ていない。
 現在のMLBにおけるもっとも「完璧な打者」プホルスが、1997年以来11敗1引き分けと長い連敗を喫しているナ・リーグに、そのバットで勝利をもたらすことができるか、大いに注目される。勝てばナ・リーグの優勝チームにワールドシリーズでのホームフィールド・アドバンテージ(第1・2戦、第6・7戦の本拠地開催権)が与えられるだけに、06年以来のシリーズ出場をめざすプホルスとカージナルスにとって、ことしのオールスターゲームは決して「お祭り」ではない。

<了>
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著者プロフィール

ベースボール・コントリビューター(野球記者・野球史研究者)。出版社勤務を経て1998年からフリーのライターに。2004年からスカイパーフェクTV!MLB中継の日本語コメンテーターを務めた。著書に『戦火に消えた幻のエース 巨人軍・広瀬習一の生涯』など。新刊『MLB強打者の系譜「1・2・3」──T・ウィリアムズもイチローも松井秀喜も仲間入りしていないリストの中身とは?(仮題)』今夏刊行予定。野球文化學會幹事、野球体育博物館個人維持会員

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