ランディ・ジョンソン、300勝への軌跡=左腕史上5人目の偉業達成

上田龍

マリナーズ移籍後に急成長、制球難も克服

ナショナルズ戦で通算300勝を達成し、声援に応えるランディー・ジョンソン 【Getty Images】

 1989年5月25日、マリナーズが左腕エースのマーク・ラングストンを2対3の交換トレードでエクスポズ(現ナショナルズ)に放出したとき、シアトルのファンは大いに失望した。メジャーに昇格した84年に17勝、ア・リーグ最多の204奪三振をマークして以来、87年の19勝を最高に二ケタ勝利4回、奪三振王3回、87、88年にゴールドグラブを連続受賞するなど、この時点でチーム創立から12年連続負け越しの“ドアマットチーム”にあって、彼は唯一の看板選手だったからだ。

 エクスポズから獲得した3選手のうち「目玉」とされたのは、身長6フィート10インチ(約208センチ)で“メジャーリーグ史上最長身投手”の触れ込みだったランディ・ジョンソン(現ジャイアンツ)だった。メジャー1年目の前年こそ3勝0敗、防御率2.42だったものの、この年は開幕からの7試合で0勝4敗、29回2/3で与四球26、防御率6.67でマイナーに降格しており、ラングストンに見合う交換相手とはとても思えなかった。
 だが、翌90年、6月2日のタイガース戦で球団史上初のノーヒッターを達成するなど14勝を挙げたのを皮切りに、ジョンソンは以後マリナーズでフルシーズン戦った8年間で7回の二ケタ勝利をマークする。92年まで3年連続でリーグ最多となる120四球以上を与えた課題の制球難も、尊敬する奪三振王ノーラン・ライアン(当時レンジャーズ)とそのコーチだったトム・ハウスにメンタルトレーニングの指導を受けて改善に転じた。93年には308奪三振でラングストンの球団記録を更新するなど19勝をマークし、与四球も99と初めて二ケタに抑え、以後現在まで毎年100を超えていない。ストライキでシーズンが短縮された95年には18勝2敗で初のサイ・ヤング賞に選ばれ、オールスター戦ではア・リーグの先発投手として野茂英雄(当時ドジャース)と投げ合っている。

脅威のボールにリーグ屈指の強打者が“敵前逃亡”

「ビッグユニット(大きな物体)」の異名を持つほどの長身に加え、サイドスローに近いスリークォーターの投球フォームから繰り出される時速100マイル(約161キロ)前後の速球と高速スライダーは、その長いリーチもあって、特に左打者には「恐怖の的」となった。97年のインターリーグ、マリナーズは地元での対ロッキーズ戦でジョンソンの先発をシリーズ前に発表していたが、当時のロッキーズの主砲でナ・リーグを代表する左の強打者だったラリー・ウォーカーは、それを聞くと「欠場」を宣言した。この年、49本塁打でタイトルを獲得し、打率3割6分6厘、130打点と三冠王レベルのスラッガーにとっても、ジョンソンは「難攻不落のサウスポー」になっていた。実際、この時期のジョンソンは左打者にホームランを打たれることがスポーツニュースのトップ項目になるほどだった。

 ジョンソンは翌98年途中にアストロズへトレードされ、99年にはダイヤモンドバックスにFA移籍し、2001年には21勝6敗、自己最多の372奪三振で球団創立4年目のチームを初のリーグ優勝に導いた。ヤンキースとのワールドシリーズでは第2戦で完封、第6戦でも2勝目を挙げた後、第7戦ではリリーフで登板し、チームの劇的な逆転サヨナラ勝ちを演出して、二枚看板だったカート・シリングとともにシリーズMVPに選ばれた。04年5月18日の対ブレーブス戦では、13奪三振で自身二度目のノーヒッターを史上17人目の完全試合で達成し、同年9月17日にはスティーブ・カールトン(元フィリーズなど)を抜いて左腕投手の通算奪三振数でメジャー1位となった。
 05・06年の2シーズン、ヤンキースに所属して2年連続17勝をマークした後、オフにダイヤモンドバックスに復帰した時点で通算勝利は280に達していたが、07年は4勝を挙げた後、故障が再発してシーズン途中に再手術を受け戦線を離脱した。左腕、腰と度重なった故障歴や45歳を迎えようとしていた年齢もあり、300勝達成は難しいと思われた。しかし、08年は打線の援護が得られない試合が続きながら11勝で大台にあと「5」までこぎつけ、メジャーで6チーム目となったジャイアンツのユニホームに袖を通した今年6月4日、左腕投手として史上6人目の通算300勝を達成した。

史上最後の300勝投手となる可能性も

 6月3日現在、メジャーの現役投手では、ジョンソンより1歳年上のジェイミー・モイヤー(46歳/フィリーズ)が250勝で続き、そのあとはアンディ・ペティット(36歳/ヤンキース)が220勝、ジョン・スモルツ(42歳/レッドソックス)が210勝と、200勝以上はジョンソンを含め4人だけとなっている。投手の分業制や先発投手の登板試合、投球数制限の影響もあり、また上位の投手が高齢、故障などのハンディを抱えていることを考えると、あるいはジョンソンが「最後の300勝投手」となる可能性もある。あえて次の達成者を予想するならば、現在通算140勝ながら、02年から昨年までの7シーズンで6回二ケタ勝利(15勝以上5回、20勝以上2回)をマークし、4回のシーズン最多完投を記録しているロイ・ハラデー(ブルージェイズ)が、安定感と32歳の年齢を考えると最有力ではないかと思われる。そのハラデーにしても、年15勝平均の計算でも300に到達するのは今季を含め12シーズンかかる計算になる。今年のドラフトで全米1位指名確実なスティーブン・ストラスバーグ(サンディエゴ州立大)に「先行投資」するのはあまりに気が早すぎるだろうか。

(日付はすべて現地時間)

<了>
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著者プロフィール

ベースボール・コントリビューター(野球記者・野球史研究者)。出版社勤務を経て1998年からフリーのライターに。2004年からスカイパーフェクTV!MLB中継の日本語コメンテーターを務めた。著書に『戦火に消えた幻のエース 巨人軍・広瀬習一の生涯』など。新刊『MLB強打者の系譜「1・2・3」──T・ウィリアムズもイチローも松井秀喜も仲間入りしていないリストの中身とは?(仮題)』今夏刊行予定。野球文化學會幹事、野球体育博物館個人維持会員

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