アプトン兄弟は“ピッツバーグの猛毒兄弟”を越えられるか?=MLB名人物ファイル

上田龍

現役最強の兄弟選手

レイズの快進撃を支えている「兄」のB・J・アプトン【 【Getty Images/AFLO】

 今シーズン、メジャーリーグで最大のサプライズといえば、1998年の球団創立以来、10年連続負け越し、過去の最高順位も4位のタンパベイ・レイズが、開幕から2カ月が経過した6月2日(現地時間)現在も、昨年の世界一レッドソックスに1.5ゲーム差をつけて、アメリカンリーグ東地区の首位を走っていることだろう。リードオフマンの岩村明憲らとともに、その原動力となっているのが、3番・センターのB・J・アプトンだ。 2002年に1巡目(全米2位指名)でデビルレイズ(当時)にドラフト指名されると、04年にメジャー昇格、07年にはシーズン途中で内野から外野へのコンバートがあったにもかかわらず、129試合に出場して、打率3割、24本塁打、22盗塁の好成績をマークしてレギュラーの座をつかみとった。今季も打っては打率3割5厘、3本塁打、34打点、17盗塁で打線の中軸を担い、センターの守りでも広い守備範囲と抜群の強肩でア・リーグを代表する外野手に成長しつつある。

 そのB・J・の弟で、05年に全米1位でダイヤモンドバックスに指名されたジャスティン・アプトンも、昨年途中メジャーに昇格してプレーオフにも出場。今季は開幕ロースター入りを果たしてライトの定位置をつかんだ。初のフルシーズンで、6月2日現在、打率2割7分5厘、8本塁打、27打点と兄をしのぐパワーを見せ、こちらもナショナルリーグ西地区首位を走るチームの中心選手として活躍している。

MLB史上に名を残す「猛毒兄弟」

 兄弟で全米1、2位と、ドラフト史上最高の指名順位を誇り、メジャー昇格後もその期待にたがわぬ活躍を披露しているアプトン兄弟だが、1世紀半にも及ぶメジャーリーグの歴史には、このエリート兄弟をもはるかにしのぐ実績を残した兄弟選手が存在した。20年代後半から40年代にかけて、主にピッツバーグ・パイレーツの中心選手として活躍したポールとロイドのウェイナー兄弟である。

 兄ポールは、25年にマイナーリーグで打率4割1厘、280安打の驚異的な成績をマークし、翌年パイレーツに当時としては破格の移籍金4万ドルで入団すると、いきなりナ・リーグ3位の打率3割3分6厘をマーク。27年には打率3割8分で首位打者に輝いたほか、安打、三塁打、打点でリーグ1位を占める大活躍でリーグ優勝に貢献し、MVPを受賞。この年、弟のロイドもパイレーツに昇格し、リーグ3位の打率3割5分5厘、兄に次ぐリーグ2位の223安打を放ったが、これは2001年にイチロー(マリナーズ)に破られるまで、純粋なメジャーリーグ1年目の新人としては長く最多安打記録だった。守ってもセンターとライトで鉄壁の守備力を誇ったウェイナー兄弟は、兄ポールが“ビッグ・ポイズン” (大毒)、弟ロイドが“リトル・ポイゾン” (小毒)のニックネームを献上され、ピッツバーグの「猛毒兄弟」として相手チームに大いに恐れられた。

松井秀の2000本安打で思い出す逸話

 その後、2人は40年までの14シーズン、パイレーツでチームメートとしてプレーした。ポールは3152安打、ロイドも2459本のヒットを放ったが、兄弟合わせての通算5611安打は、フィリペ、マティー、ヘススのアルー3兄弟(5094)、ジョー、ドム、ビンスのディマジオ3兄弟(4853)を抑えて史上トップの数字である。

 42年、ボストン・ブレーブス(現アトランタ)に移っていたポールは、対レッズ戦でショートへの内野安打を放ち、通算3000本安打を達成した。しかし、この当たりに納得できなかった彼は、公式記録員にヒットの取り消しを要請。これが認められてエラーに訂正されると、同年6月19日、古巣のパイレーツ戦で見事センターへのクリーンヒットを放ち、晴れて“仕切り直し”の3000本安打を達成した。昨年、松井秀喜(ヤンキース)が放った打球が当初外野手のエラーと判定されながら、試合後ヒットに訂正され、記念すべき日米通算2000本安打がやや拍子抜けとなった際、もし松井本人や球団関係者がポールの3000本安打達成時のエピソードを知っていれば、このことを引き合いに出して記録の訂正を求められたのではないかと、ふと思い起こしたものである。

 いずれにしても、アプトン兄弟のキャリアはまだ幕を開けたばかり。現在2人合わせて370安打(B・J・=286、ジャスティン=84/6月2日現在)でウェイナー兄弟はまだまだ遠い目標だが、それでもこの超エリート兄弟が“猛毒兄弟”の大記録に挑む最有力候補であることに、疑いをさしはさむ声はおそらく少数派であるはずだ。

<了>
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著者プロフィール

ベースボール・コントリビューター(野球記者・野球史研究者)。出版社勤務を経て1998年からフリーのライターに。2004年からスカイパーフェクTV!MLB中継の日本語コメンテーターを務めた。著書に『戦火に消えた幻のエース 巨人軍・広瀬習一の生涯』など。新刊『MLB強打者の系譜「1・2・3」──T・ウィリアムズもイチローも松井秀喜も仲間入りしていないリストの中身とは?(仮題)』今夏刊行予定。野球文化學會幹事、野球体育博物館個人維持会員

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