スペインから目指すワールドカップ=福田健二インタビュー

宇都宮徹壱

今季はラス・パルマスでプレーする福田健二 【SOCCER PLANET】

 小雪がちらつく埼玉スタジアムの記者席で、ふと、遠くラス・パルマスでプレーしている福田健二のことを思った。
 ワールドカップ(W杯)アジア3次予選、日本は初戦のタイを4−1で破って上々の滑り出しを見せた。この3次予選は、おそらく国内組だけでも十分に勝ち抜けるだろう。だが、最終予選、そして本大会での厳しい戦いを考えたとき、どうしても必要となるのが、強烈なキャラクターとゴールへの嗅覚(きゅうかく)を兼ね備えた、「日本的でない日本人ストライカー」の存在ではないか。規格外の在外日本人ストライカー、高原直泰が「国内組」となった今、海外でコンスタントにゴールを量産しているのは、福田健二を置いてほかにはいない。
 2004年に日本を飛び出して以来、グアラニ(パラグアイ)、パチューカ、イラプアト(いずれもメキシコ)、カステリョン、ヌマンシア、UDラス・パルマス(いずれもスペイン)でプレー。昨シーズンまでは、カステリョンを除くすべてのクラブで、1シーズン二けたのゴールを積み重ねてきた。ただ悲しいかな、福田が所属しているのは「セグンダ」と呼ばれる2部クラブ。よって、現地からの映像も情報も乏しいため、わが国における彼の評価は不当に低く扱われているのが実情である。
 だが、時代は少しずつ変わりつつあるようだ。いよいよ南アフリカへのチャレンジが始まる今年、まるで地下水脈がわき出るかのように、ファンの間で「福田健二待望論」が静かに、しかし確実に広がりつつあるように思えてならない。果たして当人は、日本から遠く離れた地で何を思い、そして祖国の代表にどんな感情を抱いているのであろうか

島のクラブ、ラス・パルマスにて

パラグアイ、メキシコ、スペインでプレーしている福田 【(C)宇都宮徹壱】

――日本を離れて、もう丸4年になるわけですが、さすがにもう「ハポン(日本人)、ハポン」と言われることには慣れましたか?

 逆に、日本人であることを忘れることがあって(笑)、忘れないようにしようという気持ちの方が強いですね。(こっちの人間と)一緒にサッカーして、食事して、いろんな話をしていたら、忘れちゃうんです。自分がこういう顔をしているというのを。だから家に帰って、家族と日本語でしゃべって、鏡を見て「おれ、日本人だ」って。環境になじむのはいいんですけど、日本人であることを忘れてはいけないですね。

――今季、所属しているラス・パルマスなんですが、地図で見るとスペインからえらく遠い島で、ほとんどアフリカの近くなんですね。やっぱりスペイン本土とかなり違った環境なんですか?

 建物がスペインぽくなくて、むしろ南米に近いですね。言葉も違いますし、何といっても気候がね。一年中暖かいので、なじむのに手こずりましたし、けがもしました。その前にいたヌマンシアのソリアという街は、国内でも一番寒いところでした。(今の季節は)ラス・パルマスは25度くらいで、ソリアはマイナス3度くらい。ですから、食事や水分の摂取も変わっていきますね。

――ラス・パルマスといえば、バレロン(デポルティボ)の出身地でもあるんですね。やはり、ああいうタイプの選手が多いんですか?

 彼はラス・パルマスの伝説ですね。誰もがあこがれる選手です。でも、もともと質の高い選手が生まれやすい土地柄なんです。今年のチームでも、地元出身の21歳のFWがマジョルカと4年契約を結びましたし。本土の選手よりも、もっとラテン気質のプレーをしますね。だから怠けちゃったり、メンタルの弱い選手もいるんですけど、でも確かに技術はありますね。

――島のクラブということで、アウエーは大変じゃないですか?

 飛行機で(スペイン本土まで)行きは3時間、帰りは気流の関係で2時間ちょっと。空港からまた移動がありますから。でもヌマンシアでは全部バス移動でした。10時間、12時間の移動もあるし。どっちがいいかは、その人次第ですよ。僕はどっちでも苦にならないですね。気を付けているのは、ストレッチをしっかりすること。バスにずっと乗っていると腰が固まるので、ホテルに着いたら熱いシャワーを浴びて、ストレッチして、それくらいですかね。

スペイン2部のレベルと厳しさ

――さて、福田さんは、カステリョン、ヌマンシア、そしてラス・パルマスとスペイン2部のクラブを渡り歩いてきたわけですが、日本ではなかなか2部のイメージというものが伝わってきません。具体的にどれくらいのレベルなんでしょうか?

 向こうでよく言われるのは、1部の中位から2部は、全部一緒だよって。バルセロナ、レアル・マドリーとかは別格ですが、トップ5より下なら、どことやっても同じと言われます。

――つまり、UEFAカップ出場クラスとであれば、互角に戦えると?

 それは間違いないですね。

――じゃあ、スコットランドやオーストリアあたりと比べると?

 実際やったことはないですけど。でも、スペイン人はみんな言いますね。スペインの2部で出られなくなった選手が、スコットランドやギリシャの1部に行くと「あれは金のためだ」って(笑)。
 そういえば、この間トーナメントの大会があって、ローゼンボリ(ノルウェー)、カイザースラウテルン(ドイツ)とやったんですけど、僕らが優勝したんです。

――例えば福田さんが今季、もしポルトガルの1部に移籍していたら(実際にオファーがあった)、トップリーグということで、いきなりメディアの扱いが変わってくるわけです。そのあたりについては、どう思いますか?

 何が「トップ」なのかが分からないですが(笑)。ただ僕は、スペインの2部でプレーしていて、そこで評価されることが大事だと思っていますから。

――今後、日本の若い選手が海外移籍する場合、ヨーロッパの2部のクラブからキャリアをスタートさせるというのは、選択肢のひとつとして、もっと広まってもいいように思えるのですが、いかがでしょう?

 若い選手が海外に行くのであれば、スペインの2部というのは選択肢(のひとつ)だと思うんですよ。ただ2部については(EU以外の)外国人枠が2つしかなくて、入るのがすごく難しいんです。南米、メキシコ、アフリカ、それからアジアですね。そこでの争いになるから、その意味ではスペインの2部でプレーするのも難しい。僕の場合は、本当にツイていたと思います。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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