スペインから目指すワールドカップ=福田健二インタビュー

宇都宮徹壱

日本人選手がスペインで成功しない理由

昨季所属したヌマンシアでは、福田は10得点でチーム得点王になった 【Photo:AFLO】

――日本人選手のスペインへのチャレンジというのは、それこそ財前(宣之)選手がログロニェスと契約(1996年)して以来、何人もの選手がチャレンジしてきました。最近では大久保(嘉人)選手がマジョルカで1年半頑張っていましたが、やはり完全にフィットしきれずに戻ってきてしまった。どうもスペインという国は、日本人選手にとって鬼門のようにも思えるのですが、一番の原因は何だと思いますか?

 言葉ですね。とにかく(スペイン人は)おしゃべりが大好きなんですよ。バスで10時間移動していると、10時間しゃべりっぱなし(笑)。だから、しゃべれないとつらいですよ。まず移動中もずっとしゃべっていて、練習中もしゃべっていて。だから、もし僕が日本からダイレクトにスペインに行っていたら、相当につらかったと思いますね。僕の場合、パラグアイやメキシコにいる間にスペイン語を学んだけれど、いきなりスペインだったら厳しかったでしょうね。

――言葉というのは、それくらい大事ですか?

 まあ、もちろんサッカーをしに行くわけですけど「おれはサッカーだけやりに来たんだ」という態度だと厳しいと思います。1日でサッカーをする時間って、大体2時間くらい。それ以外の時間は、スペインという国で生活しているわけで、自分ひとりで生活できるわけではない。言葉を覚えること、仲間とうまくやること、そういったことも大事になると思います。

――福田さんは、どれくらいでスペイン語をマスターしたんですか?

 うーん、何をもって「マスターした」というか分からないですけど。サッカーするのに困らないようになるので、大体1年くらい。でも、まだまだですね。細かいニュアンスなんかは「こう表現するんだ」って、学ぶことは今でもありますね。それは日本語にも言えることですが。

――最初にパラグアイに行ったときも、通訳はつかなかったんですか?

 代理人が、「通訳をつけては駄目だ」と(笑)。でも、僕もその方がいいと思いました。語学学校には行っていません。パラグアイの新聞に自分のことが書いてあったので、気になって辞書を引きながら読んだりしていましたね。独学というか、教えてくれる人もいなかったですから。向こうには日本人もいなかったし。でも、それがよかったかもしれないですね。

――つまり必然的に、必死で言葉を覚えるしかない環境だったわけですね。ところで福田さんは、もともと語学の勉強はお好きだったんですか?

 僕、語学は大好きなんです。学校でも、英語の授業が大好きでしたし。

――そういえば福田さんのブログで(アーセナル監督の)ベンゲルさんと再会したときの話が書かれてありましたが、あのときは英語で?

 英語と、あと彼はスペイン語も少しできるので。ちょうど(2006年)チャンピオンズリーグの準決勝でビジャレアルと対戦するということで、いきなりアポなしでホテルに行ったんです。で、「ベンゲルさん」って言ったら「フクダサン!」って(笑)。警備がすごく厳しかったけれど、僕だけ通してくれて。今の僕の状況を話したら「そうか、よかったな。ここはやればやるだけ自分のためになるって。ところで、明日の試合のチケットはあるのか? じゃあ、あげるから」って感じで(笑)。

――いい話ですね(笑)。ベンゲルさんは、福田さんがプロになって最初の監督でしたよね

 名古屋で僕をデビューさせてくれたのが、ベンゲルさんでした。

――そのベンゲルさんも、今ではアーセナルの名将として、世界中のスーパースターと仕事をしているわけじゃないですか。緊張しませんでしたか?

 欧州にいると、逆に近くに感じますね。ほとんど緊張しませんでした。

オールラウンダーよりもスペシャリスト

福田は、日本人がスペインで成功できない理由として言葉の問題を挙げる 【(C)宇都宮徹壱】

――日本人選手とスペインとの相性について、話を戻しましょう。プレースタイルや環境の違いで、戸惑うことはありましたか?

 まずボールタッチですね。ひとつのトラップにしろ、ひとつのパスにしろ、しっかり強いボールを出せば、しっかりコントロールできる。逆に(パスが)ぼてぼてだと、そのあとのプレーに負担がかかりますから、けっこう繊細な部分で要求されますね。まあ、ボールを持つという部分では、日本人もうまいでしょうけど。ただ、僕も最近は、日本人とプレーしていないので……。

――ピッチの状態については、どうでしょう?

 僕はメキシコからスペインに入ったんですが、メキシコはすごく芝が長くて、ボールの流れも遅かったんです。でもスペインは、すごく芝が短い上に、試合前に水をまくんですね。(ボールの走りを)速くするために。だから本当に速くて、ぜんぜん足につかなかった。コントロールひとつにしても、最初は戸惑いましたね。

――そんな環境の変化にも屈することなく、福田さんは生き残ってきたわけですが、ご自身の一番のアピールポイントは何だと思います?

 ゴールすることですね。ヘディングは負けないですし、あと、日本語で何て言うのかな……一瞬の動き出しというか、一瞬でマークを外す動きというか。スペイン語で「デスマルケ」って言うんですけど。それから、ポストプレー。

――確かに、2部とはいえゴール数がすごいですよね。カステリョンでの1シーズンをのぞいて、すべて二けたゴールをたたき出している。これだけ海外で実績を挙げている日本人ストライカーは、ほかにはいないでしょう。それとも、福田さんは本当にスペインが水に合っているということなんでしょうか?

 スペインでは、僕にドリブルなんか求めていないですから。とにかくゴール前にデンと構えて、そこでゴールを狙ってくれと。ヌマンシアでは、前で競り勝ったり、クロスのボールに対してDFの裏をかいたり、といった動きも要求されましたが。でも日本だと、ドリブルもできて、ポストもできて、シュートもうまくて、とにかく全部を求められるんですよね。

――なるほど、オールラウンダーよりも、むしろスペシャリストが求められるんですね。監督からは、いつもどんなことを?

 基本的な役割以外は、ああしろ、こうしろと言わないですね。選手は自分の特長をアピールして、監督は自分が考えているサッカーに合う選手を当てはめる。育てるという感じではないですから、監督の考えに合わないと難しいですね。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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