新時代の到来を感じさせた鹿島の健闘 南米クラブはプレーと運営面の改革が必須

南米王者のアトレティコ・ナシオナルが敗れる波乱

ほとんどが欧州王者と南米王者で争われてきたクラブW杯の決勝戦。今大会では南米王者が開催国王者の鹿島に敗れるという波乱が起きた 【写真:ロイター/アフロ】

 今年もクラブワールドカップ(W杯)が開幕する前の時点では、チャンピオンズリーグ(CL)を制したヨーロッパ王者のレアル・マドリー、コパ・リベルタドーレス覇者の南米代表アトレティコ・ナシオナルが当然のごとく決勝で対戦するものだと、誰もが考えていた。

 1960年に前身のインターコンチネンタルカップが始まった時から、クラブ世界一の座はほぼ常に両大陸の代表によって争われてきた。

 ヨーロッパ王者のレアル・マドリーがウルグアイのペニャロールとインターコンチネンタルカップで対戦した当時から、2005年に現行のクラブW杯に形が変わって現在に至るまで(05年はクラブ世界選手権と呼ばれていた)、クラブ世界一を決めるファイナルは計56回(75年、78年は大会が中止)行われてきた。そして南米と欧州のチャンピオン同士の対戦フォーマットだった時代を除くと、13回のうち9回はヨーロッパ王者と南米王者によって争われている。

 ただ南米王者が過去10年で3度目も決勝進出を逃していることについては、偶然として片付けることはできない。今大会もコパ・リベルタドーレス優勝に続き、コパ・スダメリカーナでも決勝に進出していたアトレティコ・ナシオナルが開催国代表の鹿島アントラーズに準決勝で敗れる波乱があった。

 10年大会にはコンゴ民主共和国のマゼンベがブラジルのインテルナシオナルを下し、13年大会ではモロッコのラジャ・カサブランカがやはりブラジルのアトレチコ・ミネイロを破り、決勝に勝ち上がった前例がある。だが、アジアのクラブが決勝に進出したのは今回が史上初のことだ。

レアル・マドリーと互角に渡り合った鹿島

鹿島の活躍は素晴らしく、レアル・マドリーの世界的スターたちと比べても遜色ないものだった 【写真:つのだよしお/アフロ】

 とはいえ、日本のクラブの躍進、南米クラブの失態のいずれについても、偶然の産物ではないことを強調したい。

 鹿島について言えば、まず準決勝で3点差をつけて快勝した相手が、16年を通して結果のみならず内容的にも南米大陸をリードしてきた強豪クラブであることだ。さらに決勝では世界最高レベルの戦力を有し、あらゆるコンペティションで優勝候補の筆頭に挙げられるレアル・マドリーを相手に、日本の選手たちが技術、戦術とも飛躍的に成長したことを証明してみせた。

 鹿島のプレーは非常にレベルが高く、レアル・マドリーと互角に渡り合うほどだった。もちろん相手にゲームを支配された時間帯はあったし、鋭いカウンターにさらされもした。一方で、彼らも相手ゴールに何度も迫り、ゴールチャンスを作り出した。その結果、レアル・マドリーとコスタリカの守護神ケイラー・ナバスがゲームの主役になることなど、戦前には想像し得なかったことだ。

 一時的ながらスコアをひっくり返す2ゴールを決めた柴崎岳も素晴らしかったが、ゴールキーパーの曽ヶ端準も鮮やかな好守を見せた。彼らの活躍はセルヒオ・ラモスやマルセロ、ルカ・モドリッチ、トニ・クロース、カリム・ベンゼマ、そして最多4ゴールを挙げ(うち3ゴールは決勝で決めた)大会MVPに選ばれたクリスティアーノ・ロナウドら、世界的スターたちと比べても遜色のないものだった。

 レアル・マドリーは延長戦に入るまで自力の差を見せつけることができなかった。長時間のハードワークにより、世界中のあらゆるチームが多大な消耗を強いられる時間帯になってようやく、圧倒的な個の力を駆使して勝利を手にすることができたのだ。そこまでライバルを苦しめた鹿島の健闘は大きなサプライズであり、フットボール界の勢力図を塗り替える新時代の到来を感じさせるものだった。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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