FC今治に立ちふさがる全社枠3チーム JFL昇格を懸けた地域CL決勝ラウンド

宇都宮徹壱

全社で2回戦負けしている今治は不利なのか?

地域CL1次ラウンドでのFC今治のサポーター。千葉での決勝ラウンドでも熱い声援を送る 【宇都宮徹壱】

「チャンピオンズリーグ(CL)」を名乗ったのに、チャンピオンが1チームしかいない──地域決勝(全国地域リーグ決勝大会)から地域CLに名称変更しての、最初の年の決勝ラウンド。決戦の地である千葉県市原市に集結する4チームのうち、地域リーグを制してたどり着いたのは、四国チャンピオンのFC今治だけであった。その今治もまた、1次ラウンドを2位で終えてワイルドカードでの出場。残りの3チームは、いずれも全社(全国社会人サッカー選手権大会)で3位以内となり「全社枠」からチャンスを勝ち取っており、各地域のチャンピオンではない。

 なぜ、今治以外の地域リーグチャンピオンは、全社枠3チームの後塵を拝する形で敗れ去ったのか。そのヒントとなりそうな証言がある。語ってくれたのは、今治と同じAグループを1位通過したヴィアティン三重の海津英志監督。海津監督は、全社枠の3チームがそろって決勝ラウンドに進出した理由について、このように分析する。

「リーグが終わってから、この大会までの間に公式戦がなかったということですかね。われわれはこの全社で、ホテルに合宿しながら5日間を戦ってきたわけです。みんなで一緒に過ごして、真剣勝負を連日やるというのは、普通の遠征ではなかなかできない経験です。そういうことを直前に経験できて、しかも(地域CL出場の)権利を獲得できたという自信。今回、今治さんともう1チーム(東京23FC=関東)以外は全社に出ていないので、そういった部分は大きかったのかなと思います」

 海津監督のこの仮説が正しいとするならば、先の全社で2回戦負けしている今治は不利、ということになる。加えて、ポゼッションサッカーを突き詰めることで四国リーグを制してきた今治は、その強みが封じられた時の「プランB」を持ち合わせていないことも不安材料だ。悲願のJFL昇格を果たすには、1次ラウンドで敗れている三重の他に、全社優勝の三菱水島FC、そして同2位の鈴鹿アンリミテッドFCと対戦し、2位以内を確保しなければならない。本稿では、今治の前に立ちはだかる3チームについて、先の全社での取材で得た情報をもとに分析と展望を試みることにしたい。

全社の厳しい戦いをプラスに変えた鈴鹿

鈴鹿の中盤を仕切る前水戸ホーリーホックの小澤司(右から2番目)。正確無比なセットプレーが武器だ 【宇都宮徹壱】

 今治が初戦で対戦するのが、今季東海リーグ2位の鈴鹿。コスモ石油四日市FC以来、実に21年ぶりとなる三重県からのJFL昇格、さらには将来のJリーグ入りを目指すクラブである。かつては「FC鈴鹿ランポーレ」というクラブ名で、2012年と14年の東海リーグで優勝。地域決勝にも2回出場しているが、いずれも1次ラウンドで敗退している。ユニホームの背中に「お嬢様聖水」というインパクトのあるロゴが入っていることでも有名(植物発酵エナジードリンクらしい)。地域リーグファンの一部からは「お嬢様」と呼ばれている。

 とはいえ、この「お嬢様」は侮れない。全社の5連戦は東海リーグ得点王の北野純也が4ゴール、前ブラウブリッツ秋田の柿本健太が3ゴールを挙げて、攻撃陣の充実ぶりがうかがえた。また前水戸ホーリーホックの小澤司は、正確無比なセットプレーに定評があり、三重との準決勝では見事な直接FKを決めている。この3人がキープレーヤーであることは間違いないのだが、鈴鹿が特定の選手のみに依存しているというわけでもない。それは十分に留意すべき点である。

 この全社の5試合、鈴鹿は18名の選手をターンオーバーしながら、きっちり勝ち上がっている。全試合にスタメン出場したのは、センターバック(CB)の藤田大道のみ。5日連続の全社で、こうした戦い方で勝ち抜くのは実はかなり難しい。それを可能にしたのは、チームを率いる小澤宏一監督の卓越したチームマネジメントもさることながら、連戦を通じて個々の選手が成長していったことも大きかった。全社枠3チームの中でも鈴鹿は、この厳しいレギュレーションをプラスに変えた最たる例であると言えよう。

 地域CLの1次ラウンドでも、鈴鹿の快進撃は続いた。「死のグループ」と呼ばれたCグループ(アルテリーヴォ和歌山、J.FC. MIYAZAKI、東京23FCと同組)では、いずれも90分で勝利。エースの北野は3試合連続でゴールを挙げており、全社から引き続き好調を維持している。今治にとっては、鈴鹿の10番をいかに抑えるかが重要なポイントとなるが、それ以外にも要注意の選手がいるので「ポゼッションを高めていけば勝てる」と考えるのは禁物だ。地域CLは初戦での勝利が重要な意味を持つだけに、試合展開によっては「自分たちのサッカー」を捨てる覚悟が求められるかもしれない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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