羽生とオーサーが乗り越えた転換点 300点超えを導いた段階的アプローチ

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ミスをしながらも大台突破

4回転ジャンプで1つの転倒があったものの、300点超えを果たした羽生 【写真:アフロスポーツ】

 羽生結弦(ANA)が3度目となる合計300点超えを果たし、NHK杯の連覇を達成した。この結果、4連覇が懸かるグランプリ(GP)ファイナルへの進出も決定した。

 前日のショートプログラム(SP)でミスした4回転ループを、フリースケーティング(FS)では見事に成功させた。やや軸が斜めになりながらもGOE(出来栄え点)では1.57点を獲得。演技後半の4回転サルコウは転倒したものの、他の7つのジャンプではすべて加点をもらうなど、「満足できる内容」(ブライアン・オーサーコーチ)で演技を終えた。

「正直、ホッとしました。今回はミスがあった中で300点を超えることができたし、スケートをやっていて楽しかったです。4回転ループはなんとか耐えられました。他の4回転にしても、トリプルアクセルにしてもまだ伸びしろがあると思うので、ここからさらに練習して、自信を持ってGPファイナルに臨みたいと思います」

 演技直後は「もうちょっとだな」とつぶやいた羽生だが、時間を置いてミックスゾーンに現れると、手応えを口にした。

「ようやくベースができてきたと思います。(2位に終わった)スケートカナダのときにはベースも何もなく、ガタガタと崩れ落ちた感じが自分の中にあったんです。でも今回はまったく違う感覚で滑ることができました。日本だったからこそかもしれないですけど、お客さんの方を向いてアピールすることができたし、少し成長できたかなと思っています」

 スケートカナダからわずか1カ月。ミスをしても300点超えを果たすまでに調子を上げてきた羽生に、どんな変化が生じたのか。

トータルパッケージの重要性

NHK杯ではスケーティングとジャンプを一体化させた演技を目指した 【写真:アフロスポーツ】

 今季の羽生にとって最も大きな変化は、SPとFSにそれぞれ4回転ループを入れたことだろう。まだ習得して間もないため、どうしてもシーズン開幕前からそれに対する練習の比重が大きくなる。そのせいもあり、羽生を指導するオーサーからしてみれば「スケーティングや細部のところがおろそかになっていた」。しかし、オーサーはそれを許容する。

「コーチと選手であっても、それぞれ学ぶ瞬間というものがあります。ユヅルはトレーニングにおいて実験したいこと、試したいことがあった。コーチである私は、選手のそうした思いを汲(く)んであげるべきだと思いました。彼も私も間違いを犯す自由があってしかるべきなのです。そういうことを経て、さらに良い関係性を見いだしていくこと、強い関係を築いていくことが重要だと考えています」

 オーサーは羽生にさまざまなことを試させた。その結果、スケートカナダでは不本意な出来に終わる。2人はすぐに話し合いの場を持った。オーサーが羽生に伝えたのは「トータルパッケージを大切にしなさい」ということだった。日本語で表現するのは難しいが、要はジャンプやスケーティングといった一要素ではなく、演技全体を考えることが重要だということだろう。4回転ループばかりに意識が向いて、他の要素がおろそかになり、演技自体が崩れてしまっては本末転倒になる。

 だが、羽生にとっては「ジャンプをきちんと決めないと、トータルパッケージにならない」という思いがあった。そこに考えのずれがあったのだ。羽生はそれをオーサーに伝えると、オーサーも納得した。

「スケーティングをおろそかにしていたわけではないですけど、確かにスケートカナダまではジャンプに集中して、ジャンプのためのスケーティングをしていました。ただ、その段階をスケートカナダでクリアしたので、NHK杯に向けてはスケーティングとジャンプを一体化させて、トータルパッケージを作っていこうという話になりました」(羽生)

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