羽生とオーサーが乗り越えた転換点 300点超えを導いた段階的アプローチ

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成熟した2人の師弟関係

羽生とオーサー(左)の関係は、5年目にしてさらに深化した 【写真:アフロスポーツ】

 この話し合いをきっかけに、羽生とオーサーの間で意識が統一され、練習の質が格段に上がった。加えてコミュニケーションの垣根が取り払われ、より深い部分で分かり合えるようになったという。5年目を迎えている2人の師弟関係だが、羽生の演技同様、さらに成熟したものになっているようだ。

「ユヅルにいろいろなことを試させた上で、2人の間で共通する部分において歩み寄る。そうしてもっと成長を遂げていこうという話をしました。どんな人間関係でも常に完璧であることはない。そういう意味で、われわれの関係はとても健全なものだと思います」(オーサー)

 こうした段階的なアプローチが、NHK杯での優勝につながった。昨シーズンのNHK杯ではノーミスの完璧な演技で300点超えを果たしたが、今回はミスを犯したうえでの得点。その意味合いは大きく異なってくる。裏を返せば、ミスしても300点を取れるくらいまで、各要素に対する羽生のレベルが上がっているのだ。オーサーも手応えを感じている。

「昨シーズンの今ごろを振り返ると、NHK杯やGPファイナルで高い得点を出しましたけど、その分すごく無理をしていたところがあると思うんですね。それが今は自然な流れで、(来年3月に行われる)世界選手権のときに一番良い状態になるようにしたいと思っています。オータム・クラシックとスケートカナダはまあまあの出来でした。NHK杯までいろいろな葛藤もありましたが、この大会から本当に調子を上げていく道がスタートしたんだと思います」

表現面のキーワードは「コネクト」

輝かしい戦績を誇る羽生だが、コーチも自身も、さらなる成長に自信を見せる 【坂本清】

 今大会を通じて、羽生は繰り返し自身の「伸びしろ」を強調していた。成長に対する貪欲な姿勢は以前とまったく変わっていない。4回転ループを今季からプログラムに組み込んだのも、連覇が懸かる平昌五輪を見据えてのことだ。オーサーも羽生の伸びしろを認める。

「ユヅルはまだ若く、成長の途上にあります。今も力や勢いをどんどんつけている状態です。取り損ねている要素もあるのですが、これでいいのだと思います。あとは今まで以上に落ち着いて演技をしていければもっと伸びていくと考えています」

 もちろんジャンプやスケーティングといった技術的な部分だけではなく、表現面についても向上の余地がある。FS後、羽生が発したのは「コネクト」という単語だった。日本語で「つなぐ」という意味を持つ言葉だが、羽生がつながりたいのは観客だという。

「SPでは(今年4月に亡くなった)プリンスさんのようなロックスターを演じることが自分の目標で、ライブのようなパフォーマンスをして観客の皆さんとコネクトしようと思いました。FSはむしろ僕が今までスケートを滑ってきた中で感じた苦しみや希望を、これからどうつなげていくかを考えて、皆さんに力をもらったシーンを思い浮かべながらコネクトしていきたいと思っています」

 この1カ月あまりで、羽生は多くの変化を経験した。そうした転換点を乗り越えた先により進化した自身の姿がある。羽生にとってスケートカナダからNHK杯までの時間は、大きな財産になったのではないだろうか。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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