「荒さは武器」羽生結弦に漂う円熟味 4回転ループ不発も余裕の100点超え

スポーツナビ

「ジャンプはプログラムの一部でしかない」

103.89点と他を圧倒してSP首位に立った羽生。4回転だけでなく、プログラム全体の完成度を追い求める 【写真:アフロスポーツ】

 NHK杯の前日会見で、羽生結弦(ANA)はこう語った。

「4回転ループを入れることが今季の取り組みで注目されることはあるんでしょうけど、自分にとってジャンプはあくまでプログラムの一部でしかないんです。だからプログラムとして見ていただけるように、ジャンプだけではなく、スケーティングのクオリティーを上げ、完成度を高める練習をしてきました」

 今季初戦となったオータム・クラシックで史上初めて4回転ループを成功させたこともあり、ジャンプに注目が集まるのは必然だった。しかし、そうした状況は羽生にとって本意ではなかった。4回転ループを跳べるか否かではなく、その他のジャンプの質、スピンやステップといった要素まで、プログラム全体を見てほしいという思いがあったのだ。

 迎えたNHK杯のショートプログラム(SP)。過去2戦とは違う紫の衣装で登場した羽生は、冒頭の4回転ループでステップアウト。しかし、続く4回転サルコウ+3回転トウループはクリーンに降り、後半のトリプルアクセルはGOE(出来栄え点)で3点の加点を得た。今年4月に亡くなったプリンスのロックナンバー『レッツゴー・クレイジー』に合わせて、スピーディーかつ激しくリンクを舞った。スピン、ステップは共にすべてレベル4を獲得。演技構成点も全5項目で9点台をマークし、103.89点をたたき出した。

 4回転ループでミスがありながら、それでも100点台を取れるのは総合力の高さに他ならない。まさに他を圧倒する演技でSP首位に立った。

自分の武器である「荒さ」の意味

「やっとプログラムらしくなった」と語った羽生の心情は、演技後の表情にも表れていた 【写真:アフロスポーツ】

「正直、『もうちょっとだな』という気持ちが強かったんですけど、(2位に終わった)スケートカナダから成長できた部分が多々ありました。また自信を持って臨むことができたので、このプログラムを非常に楽しむことができたと思います」

 自身の演技にある程度満足がいったのか、羽生の口調は滑らかだった。次から次へと言葉が溢れ出てくる。その中で繰り返し強調したのが、「プログラム」と「表現」という単語だった。

「(今季3戦目にして)やっとプログラムらしくなったなという実感はあります。ただ、このプログラムにはいろいろな意味が込められていると思うし、まだ勢いがある10代のスケートみたいになっている。勢いだけではなく、緩急だったり、歌詞の奥にあるものだったり、自分の奥にある感情なんかを出していきたいです」

 自分の奥にある感情。今回さらけ出したのは、スケートカナダでふがいない演技をしてしまった「悔しさ」だった。羽生はそうした「悔しさ」や「怒り」といった感情をエネルギーに変えることができる。昨シーズンのNHK杯で史上初の合計300点超えを果たしたときも、前の試合だったスケートカナダで不本意な出来に終始したことに悔しさを感じ、その後に猛練習を積んだことが快挙につながった。2014年の世界選手権ではSPの演技に怒りを覚え、その気持ちを解放したことが逆転優勝の要因になった。

 羽生はこうした自身の特徴を「荒さ」と表現する。「悔しさ」や「怒り」というのは決してきれいな感情ではないからだろう。そしてそれがスケーターとして「自分の武器」だとも語る。

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