「荒さは武器」羽生結弦に漂う円熟味 4回転ループ不発も余裕の100点超え

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4回転ジャンプ以外の大切な要素

平昌五輪のプレシーズンである今季、羽生は再びロック調の曲を用いている 【写真:アフロスポーツ】

 そういう意味では、羽生にとってロック調のプログラムは相性が良いと言える。14年のソチ五輪で金メダルを獲得した際のSPは『パリの散歩道』(ゲイリー・ムーア)。『レッツゴー・クレイジー』と同じくロック調の曲だった。『パリの散歩道』は12−13シーズンから2年間にわたり使用し、歴代最高得点を幾度も塗り替えた羽生の代表的なプログラムだ。4年前と同様、五輪のプレシーズンにロックを持ってきたのは、平昌に向けて足場を固める段階に入ったと見ていいだろう。

 現在の男子フィギュア界は史上類を見ない「4回転時代」に突入している。宇野昌磨(中京大)が4月に4回転フリップを成功させると、今回のNHK杯に出場しているネイサン・チェン(米国)は2週間前のフランス杯で、4回転ルッツと4回転フリップを同時に決めてみせた。今や国際大会で勝つためには複数の4回転ジャンプが求められる時代。選手たちは加速するその流れに対応していく必要がある。

 しかし、4回転ジャンプを多く跳んだからといって必ずしも勝てるわけではない。世界王者のハビエル・フェルナンデス(スペイン)はこう語る。

「もちろん4回転を跳ぶのは重要です。ただ他にも大切な要素があって、スケーティングを高めることや、1つ1つのGOEを上げること、スピードをつけることなどが得点に直結してきます。新しい4回転を習得するのに時間を割くのであれば、僕はそういう部分の改善が必要だと思っています」

 共に練習し、ライバルでもあるフェルナンデスの言葉は重い。羽生が4回転ループだけではなく、プログラム全体についてしきりに言及したのも、そうした細部の重要性を理解しているからだろう。

まだまだ感じる伸びしろ

 宇野やチェン、金博洋(中国)といった10代の若き4回転ジャンパーと比べて、12月で22歳を迎える羽生の演技には、円熟味が出てきた。武器である「荒さ」とはイメージ的に結び付きづらいが、曲調に合わせて観る者を引きつける動きや、会場に一体感をもたらす名演ぶりは圧倒的ですらある。

 それでも、羽生自身はまだまだ伸びしろがあると感じている。

「このSPは過去2年に比べて非常にテンポが速くて、スケーティングを見せるというよりも表現力が試されるプログラムなので、これからもっと磨いていけると思っています。はっきり言って4回転ループをきれいに降りることができれば、あと5点くらいは伸びる。その(ループが成功したときに得られる)5点とは別の部分をしっかり突き詰めてやらなければいけないと思っています」

 具体的にはスピンやステップ、トリプルアクセルなどがそれに該当するようだ。もちろん4回転ジャンプについてもさらなる向上を図っていく。

「ネイサン選手からは多くの刺激をもらっています。自分はループですけど、ルッツやフリップの方が難易度は高い。昨年の金博洋選手も同じでしたけど、まだまだ自分に伸びしろがあるなと感じるんですね。自分はこういう構成なんだからもっとできるなと自信がつくんです」

 フリースケーティングは久石譲作曲の『ホープ&レガシー』。SPとは一転してピアノの旋律が美しく響く曲調だ。「違った印象のプログラムで、異なる雰囲気を出し、SPよりも伸びのあるスケーティングを見せたい」。そう語る羽生の目はすでに次へ向けられていた。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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