FC今治に立ちふさがる全社枠3チーム JFL昇格を懸けた地域CL決勝ラウンド
三重が「決勝ラウンドでの最強チームである」理由
今回、地域CL初出場となる三重を率いる海津英志監督。決勝ラウンドでの采配にも注目 【宇都宮徹壱】
この三重については、当初は「三重県からJを目指すクラブのひとつ」という認識ではなかった(ちなみに県内には鈴鹿の他にFC伊勢志摩というクラブもあり、三重県サッカー界は三国志状態となっている)。ところが先の全社では、2回戦で地域決勝の常連だったサウルコス福井を1−0で、続く3回戦で「日本のフィジカルスタンダードを変える」と宣言していたいわきFCを2−1で撃破したあたりから、三重に対する見方が私の中でにわかに変化し始める。そして1次ラウンドで今治を3−0で一蹴したことで、このチームこそが「決勝ラウンドでの最強チームである」との確信に至った。
ブラジルから帰化して、FWもCBもできる太倉坐(でぞうざ)ドゥグラス。元モンテディオ山形で、トップ下のポジションから多彩な攻撃を仕掛ける坂井将吾。そして藤枝MYFC(当時JFL)などでプレーし、存在感あるワントップとして君臨する藤牧祥吾。このあたりが三重のキープレーヤーだが、三重の強さを支えているのは今年で就任3年目となる、前出の海津監督というのが私の見立てだ。
実際、ここまでの海津監督の采配は、見事なほどに冴え渡っている。いわきに対しては「フィジカルでは敵わないが、テクニックでなら勝てる」ことを見抜いて、直接競らずにセカンドボールを拾って前に送るという戦術を徹底。今治に対しては「あまり引っ張り出されないようにして、大事なポイントのところだけ対応する」ことで、相手のパスワークを寸断することに成功した。おそらく三重は、2日目の今治戦で2位以内を確定させる算段だろう。3日目に対戦する鈴鹿とは、今年に入ってリーグ戦、天皇杯予選、そして全社などで5回対戦しているものの、実は1分け4敗と一度も勝利がないからだ。海津監督も「何とか頑張って(昇格が)決まった状態で当たりたいですね」と語っている。
練習に6人しか集まらない「奇跡のチーム」三菱水島
ノープレッシャーで勝ち上がってきた三菱水島。カウンター主体の戦術は、はまると脅威だ 【宇都宮徹壱】
三菱水島はある意味「奇跡のチーム」である。全員が本業を持っているため(三菱自動車の社員ではない選手もいる)、平日夜の練習に集まれるのは6人ほど。全社や地域CLでも、平日は仕事があるためチームから離脱する選手もいるくらいだ。全社では5試合中3試合、1次ラウンドでは3試合中2試合で第2GKがベンチに不在(全社の決勝は夜勤明けでベンチ入りしたとの情報もある)。そんなチーム状態にもかかわらず、全社で優勝し、なおかつ地域CLの決勝ラウンド進出を果たしたのだから侮れない。
実は三菱水島は今年、親会社の不祥事(燃費データの改ざん問題)を受けて、天皇杯予選の参加を見送っている。それゆえ今回の全社は「力試しみたいな感じだった」と菅慎監督は正直に告白している。ノープレッシャーゆえのチャレンジ精神、そして「自分たちにはカウンターしかない」という割り切りこそが、実は彼らの一番の強みなのかもしれない。個々の技量では今治がはるかに上だし、際立った能力を持った選手もいない。それでも、彼らの堅い守備とカウンターは、はまれば脅威となる。
なお、三菱水島が決勝ラウンドで2位以内となった場合、彼らがそのままJFLに昇格するかどうかについては「その可能性が低い」という意見が一般的だ。先述したとおり、彼らは自分たちの都合でJFLから脱退した過去があるし、親会社の現状を考えると全国リーグで戦えるだけの体力を持ち合わせているとも思えない。仮に三菱水島が2位、今治が3位となった場合、今治が繰り上げでJFLに昇格する可能性は十分にあり得る話だ。それでも今治は、あくまで自力での昇格を目指すべきであることは言うまでもないだろう。毎回、さまざまなドラマを生んできた地域決勝。地域CLとなった今年は、どのような結末が待ち受けているのか、取材現場でとくと見届けることにしたい。