父子鷹レーサーが活躍するF1界、アレジ親子が語る2世のメリットとは?

田口浩次

ジャン・アレジ(右)と息子のジュリアーノ 【WIN Photographic/佐藤正勝】

 レッドブルのマックス・フェルスタッペンが第5戦スペインGPにおいて、史上最年少の18歳で初優勝を飾り、第6戦モナコGPでは次々とライバルをオーバーテイクして注目を集めるもリタイア。そして第7戦カナダGPでは見事4位を獲得し、F1パドックでは彼の一挙手一投足に注目が集まっている。実はフェルスタッペンは父親のヨス・フェルスタッペンもF1ドライバーであり、幼少のころから英才教育を受けてきた。

 これまでも多くの2世ドライバーが誕生し、ジャック・ヴィルヌーヴ(父親はフェラーリなどに在籍したジル・ヴィルヌーヴ)やデイモン・ヒル(父親は2度ワールドチャンピオンになったグラハム・ヒル)はワールドチャンピオンにも輝いている。しかし、彼らの父親はレースやテストで事故死しており、その子供たちはレース人生において父親の直接的なサポートは受けていない。

 一方、現代の2世ドライバーたちは、メルセデスのニコ・ロズベルグを筆頭に、ルノーのケビン・マグヌッセン、そして前述のフェルスタッペンと、幼少時代から父親のサポートがありF1へたどり着き、その後もサポートが続いている。

 そして、そんな2世ドライバーの世界に、次世代ニューフェイスとして注目を集めているのが、今シーズンGP3に挑戦中の元F1ドライバー、ジャン・アレジ氏の息子、ジュリアーノ・アレジだ。母親は日本の芸能界で活躍する後藤久美子さん。ジュリアーノは、イタリア系日仏ハーフとして日本語、英語、フランス語、イタリア語の四カ国語を話せるクワトロリンガル。語学面においては、すでに現在のF1ドライバーのスタンダード以上をクリアしている。

 そんなアレジ親子に、親子ドライバーならではの環境や将来のF1に向けた道筋など、さまざまな話を聞いた。

アドバイスは「回り道をさせないため」

──今シーズンも、ニコ・ロズベルグ、ケビン・マグヌッセン、マックス・フェルスタッペンと、多くの2世ドライバーがそろいました。昔もジャック・ヴィルヌーヴやデイモン・ヒルといった2世ドライバーがいましたが、その時代とは違い、現在の2世ドライバーは、父親がマネージメントに参加したり、多くのアドバイスを与えたりします。実際、あなたも元F1ドライバーとして、今季、息子さんをGP3へとステップアップさせました。こうした親子ドライバーの有利な点、そして不利な点があれば教えてください。

ジャン・アレジ(以下アレジ):うーん、そうだな。有利な点はなんといっても、僕自身がこの世界をよく知っているからこそ、何を重視すべきかを的確に判断し、それをアドバイスできることかな。僕自身がこの世界に飛び込んだとき、ほんの少しのドライバーだけが、ステップアップするために何が必要で何を求められているのかを知っていた。そして、僕はその点ですごく不利だった。頭が悪かったわけじゃない。その瞬間瞬間に必要な判断を下すための情報を手にしていなかった。だから、どうしても回り道が多かった。

 F1関係者からすれば、より才能があるように見えるドライバーに注目する。僕はそのドライバーより優れていると確信していても、外からそう見えなければ駄目なんだ。だから、僕がジュリアーノにいろいろとアドバイスするのは、余計な回り道をさせないためだ。

 そして、いまはF1のことを考えさせないことも重要だ。F1というのは特別な世界で、ドライバーとしての才能や、ハードにそこを目指して頑張ることは当たり前で、さらに幸運も兼ね備えなければならない。現在のF1を見て、果たして簡単に入っていけるような隙間があるだろうか? 正直、見当たらない。だからこそ、ドライバーにはレース全体に対する情熱が必要だ。これはジュリアーノにも語っているけれども、いまはとにかく自分自身の才能をより向上させることと、問題を直視し改善することに集中すべきだと思う。いまの段階では、僕自身の経験がアドバイスに生かせる。「こんなときは……、あんなことがあった……」という具合に頭のなかで、いろいろな引き出しを開けて、ジュリアーノに何が必要かを語りかけることができる。

 そして、いまの段階ではすべての経験が学び舎だ。昨年彼が挑戦したF4、そして今年挑戦するGP3は決して簡単な世界ではない。だから、F1を夢見るより、まずはこの世界で戦っていくために必要なことを学ばせることが重要だ。こう長々と説明してきたように、僕自身の経験が生かせることが親子ドライバーが有利な点かもしれないね。

──なるほど。では、父親が元F1ドライバーという立場からはいかがですか?

ジュリアーノ・アレジ(以下ジュリアーノ):父から学んだこと、そして日頃言われていることは、とにかく目の前に集中するということです。とくに今年挑戦するGP3は初めて挑戦するカテゴリーで、とくにタイヤの使い方という点で、これまでのカートやF4とは違い、この先のF1までつながっていくフォーミュラカーの基礎を学ぶことができます。タイヤだけじゃなく、すべてが勉強になるカテゴリーです。

 だからこそ、余計なことや夢見がちのまま戦うのではなく、とにかく目の前に集中するつもりです。僕が元F1ドライバーの息子ということで、不利な点はひとつもありません。正直、レースの世界に飛び込んでからは、自分は幸運だと思っています。父親との会話からすばらしいフィードバックが得られますし、その時々に何をすべきかを的確に語ってくれる存在が側にいるのですから(笑)。

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